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第13章 どうやら犯人は八虐の不道のようです。

トラブルを乗り越えろ!!

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 紅葉が剣を鞘の中に入れると、先程まであった剣はただの折紙に戻ってしまった。
そして、紅葉はスポンジの塊を踏み越えて、地面に倒れている男に近づく。
紅葉の目線の先には胸を空に向けて、まるで蓮根のように小さな小さな傷口からシャワーのような細さで血液が流れ出ている。
まるでスポンジの穴のようにポツポツと傷口が開いているのだ。

「───生きとーと?」

紅葉は地面に横たわっている男に尋ねてみる。

「スッースッー」

しかし、男は虫の息で動くことができないようだ。
もういつ死んでもおかしくないほど彼は弱っている。
だが、彼の生きたいという意思がこのまま彼を眠らせるわけがないのだ。

「───なんて1日だ。せっかくの旅行日に正体がバレて、仲間を殺すはめになって、更にこんなガキ共の前で這いつくばって、私が死にかけているとは」

ここから逃げなければ今度こそ殺されてしまう。
彼は今までどんなピンチだろうと、切り抜けてきたのだ。
今まで通り、不幸が来れば幸福は来る。
人生は不幸続きではないという事を彼は一番よくわかっていた。
彼はこのまま大人しく死んでいく存在ではないのだ。
しかし、紅葉は彼を許すつもりもなく、彼に近づくと手元に隠し持っていたナイフを彼の首筋に近づける。

「どうする?
遺言くらいはあんたん大切な人たちに伝えといちゃるわ」

「──そうだな。白状してもいいかもしれない。私には昔、両親と妹がいたんだが。
過去の鍵を巡る戦いに巻き込まれて、母は犠牲になった。私はそこで出会ったんだ………………」

犯人が思い浮かべたのは、あの夜の事。

────────────────────────

 これは犯人の見た過去。
少年時代の犯人の目の前には女性の死体が転がっている。
それを泣きながら見つめる少年。その少年を見る男。
暗闇に染まる黒い服の男が犯人の師匠となる者だとは、そのときはまだ理解できなかった。
彼はただ目の前で泣いている少年を見続けているのであった。
ただ、それだけである。
だが、何故か犯人はそんな男に弟子入りを申し出たのだ。
犯人にはその時、何故彼に弟子入りしたのかよく覚えていなかった。
ただ、彼に惹かれた。
それだけの理由である。
おそらく、同じような者同士惹かれ合ったのだろう。
その夜、犯人は自分の家族と別れ、家を出ていった。



 そんなあの人との出会い。犯人が彼の弟子入りした時。母親が殺された時。
いや、それより前に犯人はもう壊れていたのかもしれない。
ただその変化がハッキリと現れたのがその時期だった。

 数年後、犯人は師匠と別れ、とある組織の扉を開く。
その頃の犯人は人への同情も哀惜も慈悲も何も感じなくなってまっていた。
人間としてあるべき感情を失ってしまった。
心の奥底にある本心からそれらの感情を表に出せなくなったのだ。
だが、その事に犯人は全く驚くことも嘆くこともなく。むしろ、歓喜した。
もう普通の人とは考え方が変わってしまっていたのだ。
人を殺すことが趣味を行う事と同等の価値になり、それでも普通の人間として生きたいと葛藤する。
善と悪、殺戮と平穏。
人として感情が壊れた心と、人として幸せを願う心。
その揺らぎが彼を苦しめ続けていた。

 父や妹を置き去りに、信用もできない師匠から独り立ちし、組織に入った。
そんな哀れな男。
自らの名前を捨てて偽名を名のり、自らの顔を変えて、完璧に別人としてその組織で働いた。
そんな偽りの男。
愛を認めず、愛に生きず、ただ殺戮を繰り返した。
そんな狂気の男。

それが付喪カフェの常連客になるはるか前、彼が店長に出会う前の姿である。

───────────────────

 そんな過去を口ずさみながら、犯人は今の姿と過去の姿を思い比べてみる。
そして、彼はその変化についてある理由があることに気づいた。

「──私は店長に出会って、あの店に出会って、少しだけ愛を思い出せたんだ。
だから、私は最愛の女性と出会えたし、ちゃんとサラリーマンとして数市の会社でも働いた。
クビになってからも付喪カフェで働いた。
人を殺すだけの男が少しでも人間に戻れたのは店長のお陰なんだ」

彼はクラクラとした意識の中で遺言のように呟く。
すると、今までの彼の話を刃物を突き立てたまま聞いていた紅葉は少し彼がかわいそうに思えてきたようだ。

「あんたって少しかわいそうな人やなぁ。ばってん、それがあんたん罪ば許すという結果に繋がることはなか。あんたん罪はばり重かもんや。あんたん奪うてきた者達はばり尊か者達ばい」

だが、紅葉が彼の罪を許すわけにはいかない。
彼の命をここで奪わなければ、更に被害者が出るかもしれないのだ。
個人としてはかわいそうだと思うが、それでもやっていい事といけない事はある。
社会の平穏のために紅葉は犯人を殺さなければいけないのだ。
しかし、犯人もただで死ぬわけにはいかない。

「──そうだな。だが、ここは君たちに私が罪を償う場所ではない。私は生き延びる。
母を奪うことで私という悪行を産み落とした戦いを再び繰り広げないようにするために……。
それが私の生涯をかけてやらねばならない事なのだ」

犯人は一瞬の隙をついて、紅葉の持っている刃物を遠くへ投げ捨てる。

「……!?
せっかく、うちゃあんたん事ば見直したとに、なしてここで罪ば償おうとせんと?
なしてそこまでして自らば偽ったまま過ごそうとすると?」

「ああ、私がこれまでしてきた思出話は真実だし、本心だ。だが、私は生きなければいけないんだよ。平和な生活こそ私の人生であり希望なのだ。私はこの命が尽きるまで生き続ける」

犯人はそのボロボロな身体で立ち上がる。
少し動いただけでも、傷口から血が出てくるのだが、それでも彼は痛みに耐えながら立ち上がった。

「私があんな長い話をペラペラ、ペラペラと式の校長先生の話のように聞かせていたのには理由があるんだ。私はただ時間が欲しかったのさ。時間稼ぎのついでに私の事を遺言のように聞かせていたんだよ」

犯人は何かを企んでいるようにニッタリと笑う。



 その表情に違和感を感じた紅葉はポケットから折紙の能力で刃物を作り出し、立ち上がった犯人に向ける。

「いったい何ば企んどーと!?
刃物ば失うたとしたっちゃ、うちにはこん折紙ん能力で……」

「私のスポンジマンが一人だと誰が言った?
もしもの時のために私はストックをこの町に潜ませておいたのさ。スポンジマン計4体。
それをここに呼んだのだよ!!!
フハハハハハハハ!!!!」

犯人は頭を反るほど高笑いをあげる。

「嫌な予感が的中しやがった。紅葉!!」

「分かっとーばい。『折紙享楽………」

紅葉や山上は嫌な予感が当たったので、なにか起こる前に犯人を取り抑えようと試みるのだが……。
犯人は2人に体を向けながら、後ろに下がる。

「無駄だ。もう遅い。既に私を攻撃しても遅いんだ。もう私を追い詰める者はこれでいなくなる。お前らさえ消えてくれれば済む話なのだ。
お前らの能力も既に学習済みなスポンジマンがやって来るぞ。
やはり、私には敗北などないのだ!!」

彼のその目には既に見えている。
紅葉と山上が彼を止めようと動き出す前に、既に来ていた事を知っていた。
彼の目に写るのは、2体のスポンジマン。
もう紅葉と山上の背後には敵が迫ってきていたのだ。
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