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第13章 どうやら犯人は八虐の不道のようです。

両親の敵討ちに燃える男、山上ッ!!

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 路地道に佇む3人の男女。
王レベルの2人対犯人とスポンジマン。
戦いはいつ始まってもおかしくない状況。
犯人と山上は睨み合って動かない。
山上にとっては目の前にいる男こそが家族を殺した仇なのだ。
しかしそんな中、緊張感もない紅葉は、1人でせっせと何か作業をしていた。

「いったい何してるんだ?」

犯人はその女性に何をしているか尋ねてみたのだが、女性は集中して作業しているので、返事を返してくれない。
まぁ、そんな紅葉のことは置いておいて、山上と犯人は遂に動き出す。

「スポンジマン!!」

犯人がそう言うとそれを合図に、スポンジマンは山上に向かって走り出す。
もちろん、山上も準備は行っていた。
この瞬間のために、今まで生きてきたのだ。
山上の人生はこの戦いの結果次第で始まるのだから。



 その瞬間、山上はこの路地道に隠していた紐を勢いよく犯人とスポンジマンに絡み付けた。
四方八方から引っ張られる身体。
四肢を吊るされて身動きが取れない犯人。

「しまった、動けん。身体が」

無理に引き離そうとすれば、紐が結び付いている部分が裂けて肉が削がれてしまう。

「──俺はてめぇを許さねぇ」

山上の言葉と共に首に絡まった紐が急に激しく絞まる。
このままでは犯人は息が出来ずに死んでしまうだろう。
だが、そんなタダで死ぬような真似を山上が許すわけがない。
山上は自身の拳にも紐を結び絡み付けたのだ。

「この紐は鋼鉄よりも固い。それを結びつけた拳でてめぇを殴る。てめぇが泣いて詫びるまでこの拳は続くんだ!!」

そう言って山上は動けなくなった犯人に拳を喰らわせていった。

「ゴハァッ!?」

なるほど、確かにその拳から放たれる痛みや衝撃は普通の威力ではない。
一撃一撃に恨みや怒りが籠った全力のパンチが犯人の身体に傷を負わせていく。
犯人がスポンジの付喪人だとしても、彼自身は人間。
防御も攻撃も全てスポンジマンに行わせていたただの人間。
普通の人間と付喪神の力もプラスされた人間には力の差がある。
しかし、この殴られている状況でも犯人は笑っていたのだ。

「クククッ、
君の拳は鋼鉄よりも固いんだってね。実は私のスポンジマンも鋼鉄よりも固いんだ。まぁ、本当に固いって意味ではないよ。
柔らかいって事は壊れにくい。壊せないという意味で固いって言ったんだ」

殴られながらも、説明を怠らない犯人。
山上は気味が悪くなったが、それでも殴るのをやめない。



 その時、誰かが山上の肩をトントンと叩いてきた。
紅葉だろうか…と考えて、山上が振り向くと。
それは紅葉ではなく、縛られて身動きが取れないはずのスポンジマンであった。

「何故だ!?」

山上は再びスポンジマンを縛ろうと考えたのだが、それよりも先にスポンジマンのパンチが彼を襲う。

「ッ!?」

1撃のパンチで吹き飛ばされる山上の身体。
彼の身体はそのまま路地道にあったごみ置き場に突っ込む。



 幸い、ごみ置き場が落下のクッションとなってくれたお陰で助かったが、もし無かったら壁に激突していたところだった。

「──これくらいの境地なんて今まで何度も潜ってきたよ。でも、その度に突破してきた。
私には運があるんだよ。幸運って奴がね」

スポンジマンは犯人の身体に結び付いた紐を切り離してあげている。

「そういえば、君たちは確か、王レベルの山上と紅葉かな?
噂には聞いていたよ。スポンジマンを追ってくれていたそうじゃないか。ありがとうね」

犯人は2人の顔をチラッと見てからそう呟く。
紅葉は何か作業を続けているので気にしてはいないが、山上には彼がどういう意味で言っているのか分からなかった。

「何を言ってるんだ?」

「君たちという障害を乗り越える事で私のスポンジマンは更に強くなる。感謝しているとも。
でもね、この私を探り回っている者は必ず始末する。それは変わらないよ」

再び、スポンジマンを山上の元に走らせる。
もちろん、山上は再びスポンジマンを紐で縛り上げようとするのだが…。
今度はスポンジマンが襲いかかる紐を全て避けながら向かってくる。
なんという驚きであろうか。
この付喪神は1度受けた技をまるで学習したかのように避けていくのだ。

「嘘だろッ!?」

ふらふらになりながら立ち上がる山上。
彼はごみ置き場に置いてあった鋭いゴミを紐を使ってスポンジマンに飛ばす。
しかし、鋭いゴミでもスポンジマンの肉体には突き刺さらず、落ちていくのだ。



 それの様子を離れて見ていた犯人は安心して安堵している。

「いいぞ。まるで陸上選手を後ろから見守るコーチのような気分だ。だが、これでいい。このまま気に入らない者が消えてくれれば私の居場所は守られる」

このまま行けば、スポンジマンは確実に山上を殺すことができるからだ。
水分が体内にあるどんな生物も殺せる付喪神の能力。
素晴らしい学習能力と攻防。そして潜伏スキル。
かつてこれ程完璧な付喪神に山上は会った事があるだろうか。
さすがの山上も今回ばかりは焦っている様子。
たった数年でこの国の三大虐殺に加えられたエリートと戦っているのだ。
彼にはどんな普通の暗殺者もかなわない。
幽霊なら透明化出来るし、この世に滞在するエネルギーを損なわなければ殺す事が出来ないが、それ以外にはどんな人間であろうと犯人には勝てる自信があった。

「勝ったな。私の無敵の付喪神に敵などいない。例え付喪連盟の王レベルであっても冒険者連盟であっても、それらの上の勇者連盟であっても、私の幸福な人生を破壊する者はいないのだよ!!」

犯人の目線の先では、もうスポンジマンが山上に近づきつつあった。
どうやら、山上の考えるどんな手段を使ってもスポンジマンを止める事は出来なかったらしい。
あとは彼の体内に小さな小さなミクロサイズのスポンジを入れるだけでいいのだ。



 目の前に迫るスポンジマン。
山上の死へのカウントダウンは刻一刻と迫っていた。
彼がどんなに縛り上げようと、どんなに突き刺そうと物を飛ばしても、どんなに紐を貫通させようとしても…。
スポンジマンには効果が無い。
圧倒的な力の差。
何をしてもここで死んでしまうのは彼にだって分かっていた。

「諦めねぇ。俺はまだ諦めてねぇし終わってねぇぇぇぇ!!!
俺の心は折れていねぇんだよ!!!」

だが、それでも山上の熱き心はまだ諦めていないのである。



 その時、

「『折紙享楽(おりがみきょうらく)・巨手裏剣』」

女性の声が山上の耳に聞こえてきた瞬間、迫ってくるスポンジマンの動きが止まった。
見ると、あの刃物も簡単には通さないスポンジマンの体に紙でできた巨大な手裏剣が突き刺さっている。

「「!?」」

何事かと驚く山上と犯人。

「驚いたやろう。どうやら殺される前に間に合うたごたーな。さぁ、ストックはたくしゃんあるけん、かかってきんしゃい。うちん折紙享楽ん恐ろしさば見せつけちゃるわ」

遂に紅葉の実力が明らかになる時が来たようだ。
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