どうやら主人公は付喪人のようです。 ~付喪神の力で闘う異世界カフェ生活?~【完結済み】

満部凸張(まんぶ凸ぱ)(谷瓜丸

文字の大きさ
上 下
194 / 294
第13章 どうやら犯人は八虐の不道のようです。

シュオルの町はお祭り騒ぎ

しおりを挟む
 「これがシュオルの町か~」

俺たちを乗せた馬車は町の中へと入っていく。
馬車から覗くと、仮装をしている沢山の人々が道を歩いている。

「ねぇ~英彦、あれは何かしら?
白い髭に赤い服を着て袋を持った人がいるわ」

黒は窓の外に見えたコスプレをしている1人に指を指して英彦に尋ねる。

「あれはサンタクロースのコスプレだよ」

「へ~あれが。じゃあ、あのコスプレは?」

黒は再びコスプレをしている集団に指を指して、英彦に問う。

「あれはサムライ。あっちはオイラン。あれはサキュバス。あれが警察官、そして、あの大きいのが超機械正義エリダンのコスプレだよ」

なんだろう。超機械正義エリダン?
なんだか子供心を擽るようなそんな印象を覚える。

「なぁ、そのエリダンってのはいったい?」

俺は英彦に超機械正義について聞こうとしたのだが。

「お客さんそろそろ停留所だ。降りる準備でもしておけよ」

馬借のおっさんの大声に質問は遮られてしまった。




 「着いたァァァァァァァァ。さぁ~ここがシュオルの町よ~」

黒は一番乗りで馬車から降りる。
付喪カフェメンバーを代表して彼女が1歩目を踏み入れたのだ。

「んんん、素晴らしい町じゃないか。人々が笑顔や喜びで満ち溢れている」

「ここがシュオルの町。いろんなものが買えそうだな」

続いて、鈴木さんと妙義が町の様子に驚きながらも降りてくる。

「凄いですね。明山さんお祭りですよお祭り」

そう言って英彦は俺の方を振り向きながら降りる。
期待に胸をふくらませている英彦の後を追うようにして俺も馬車から降りる。

「ああ、来てよかったかもな」

行きたがらなかった時の自分が嘘のように、今の俺の心はワクワクしている。
自分でも、こんな感情を抱くとは思ってもみなかった。
そして、まだ馬車内に残っていた簀巻は、「ここまでありがとうございました」と、みんなを代表しておっさんに礼の言葉を贈る。
すると、馬借のおっさんは俺たちの方を向き、「いや、気にするな。せいぜい祭りを楽しんできな」と仕事をやりきった事を喜び、俺達に向かってガッツポーズを行った。





 「じゃあね~馬借のおっちゃーん~」

また仕事へと向かっている馬車に向かって黒は手を振る。
そんな黒の横で、俺と妙義はこれからの予定を話し合っていた。

「なぁ、これからどうする?」

「そうだな。まずは宿だよな。おーい黒ちゃん、もう出発するぞ。宿探しだ」

妙義によって、スッカリ旅行の幹事的存在を奪われた事に気づかない黒は何も考えていないような声で返事を返す。

「はぁ~い~。宿探しね~」

まるでゆらゆら揺れるクラゲのように歩き出す黒。
ワクワクで頭の中がいっぱいとでも言うように、とろけたような笑顔を浮かべている。
彼女はそれほど、これからが楽しみなのだろうか。

「私についてきて~。みんな~行くよ~」

ゆらゆらと歩く黒は本当に宿屋の場所を理解しているのだろうか。
ゆらゆら黒からは頭を使っている様子が見られない。
少し不安になりながらも、俺達は彼女に着いていくしかないようだ。
だが、そんな中、簀巻だけはその場に立ち続けている。
魂が抜き出たかのように佇んでいるのだ。
その様子に気がついた英彦は、簀巻に声をかける。

「簀巻さん? ボーっとしてないで、早く行きましょうよ」

「────ここ…来たことがある?」

何か1人で呟いているようだが、お祭り騒ぎで英彦にはよく聞こえない。

「ん?簀巻さん? 簀巻さん? 簀巻さーん?」

「あっ、ごめん。今いくよ」

ようやく英彦の声に気がついたのだろうか。
簀巻は我にかえって、みんなの後を追っていくのであった。



 「はい、そしてここが私たちの泊まる宿屋になりまーす」

あっという間に時間が経って、俺たちが辿り着いたのは和風のお屋敷。
その造りの凄さには驚いてしまう。

「こんな町だからてっきり、洋風の宿屋しかなかったと思っていたのだが、和風の宿もあるんだな~」

この国では和風のお屋敷は数多くない。
そもそも、技術を全員が知っているわけではないから、和風な建物は社市にしか無いと思っていた。
しかし、目の前にしかもシュオルの町中に堂々と和風な屋敷が建てられているのだ。

「どうよー!! いい宿を見つけたと思わない?
これは別に私が、SAMRAI将軍九十九道中にハマっているから和風がいいとかそんな理由じゃないからね。
この宿屋は知名度の高い宿屋なのよ」

自慢げにいい放つ黒を今日は誉めてやりたいくらいだ。
だが、妙義は少しもじもじとして我慢が出来ないらしく。

「なぁ、そろそろ早く荷物を部屋に入れないか? 
お祭りが本格的になるのは夜だけど、それまでには少し町中を歩きたいんだ。それに…その………………」

妙義は顔を真っ赤に染め上げて、焦りながら今にも消えそうな声をあげる。
妙義の言葉に何かを察した英彦と黒は、彼女の手に持っていた荷物を奪い取るように持ってあげると……。

「みなさん早く宿屋に入りましょう!!
妙義さん、荷物は僕が責任を持って運びますから」

「私も同行するわ妙義。まずは場所を聞きに行かなくちゃ」

そういえば、途中で休憩もなく馬車に乗っていたからな。
ずっと我慢していたのだろう。



 3人は急いでそれぞれの目的のために行動を開始する。

「まぁ、俺たちは英彦と一緒に宿屋にチェックインしておこうぜ」

残された3人で英彦の後を追いかけようと走り出したその時。
グルルルゥゥゥッゥ!!!!!
俺の腸も動き始めた。




 「おっ、わっ、悪いが鈴木さんと簀巻と英彦。
俺もちょっと離脱するから~!!
チェックイン頼んだ~!!」

宿屋に入った瞬間、俺は内装も見ずに黒達の後を追うように走り出す。
簡単に言うと、靴置き場とカウンターがあるくらいだ。
それ以外は目に入らない。

「えっ? ちょっ、部屋番号はどうやって伝えればいいですか?」

チェックインを行っている最中の英彦が驚いたように俺に尋ねてくる。

「ここに戻って宿屋の人に聞けばいいだろ?
そんじゃっ!!」

荷物を鈴木さんに強引に押し付けて、俺はまっすぐトイレへと向かっていく。

「はぁ、あっ鈴木さん達、僕は書類などを書かないといけないので、先に行っててください。
部屋番号は971と972と973です」

さすがにこれ以上待たせるのも悪いと思ったのだろうか。
英彦は2人に部屋番号を伝えて先に行って貰うことにしたようだ。

「分かった。じゃあ行こうか簀巻君。みんなの一旦荷物は廊下にでも置いて部屋割りは後で決めよう」

「そうですね。あっ、英彦君。ついでにみんなの荷物も持っていくから」

「あっ、すみません。ありがとうございます」

カウンターでチェックインを済ませている英彦を後にして、2人は全員の荷物を部屋へと持っていくのであった。






──────────────────────────────
 「なんで俺がこんな任務を!!!」

空気のきれいな草原の中を1台の馬車が走り去っていく。
男は馬車に乗って景色を楽しむわけでもなく。
同僚に愚痴をこぼしながらアヤトリをしていた。

「まぁまぁー落ち着いて。こっちも人手がたりんけんね。しゃーないとよ。
ばってん君が来てくれてうれしかった。王レベルのみんなはピリピリムードやろ?
やけん誘いづらくて」

対して、その同僚は男がアヤトリをしている姿を見ながら、折り紙を折って遊んでいる。

「はぁ~、まぁ、俺達は何一つ情報も見つけてないし、俺は連絡が来たらすぐに向かうつもりだから別にいいけどな」

さすがにこれ以上愚痴を言うのも悪いと思ったのか。
男はアヤトリを止めて気を落ち着かせるために窓の外を見る。

「やっぱ、そういう所が素敵だと思うよ。生徒会の仕事も個人的な怨みもあったやろうに……。
ありがとね山上君」

満面の笑みでお礼を言われるとは思ってもいなかったのか、山上は赤面してさらに窓の外の景色を見て気を紛らわせる。

「はずかしかとね? も~、そういうとこが可愛か~」

看守服を来た17歳くらいの年齢に整った美人顔。
髪の色は梅重色(うめがさねいろ)でウェーブミディアム。
瞳の色は両目とも支子色(くちなしいろ)の少女。
そう彼女こそが王レベルの1人。
『中野紅葉(なかのもみじ)』である。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した王子・アンジェロは、隣国の陰謀によって追放される。しかし、その追放が、彼の真の才能を開花させた。彼は現代知識を活かして、内政で領地を発展させ、技術で戦争を制することを決意する。 アンジェロがまず手がけたのは、領地の開発だった。新しい技術を導入し、特産品を開発することで、領地の収入を飛躍的に向上させた。次にアンジェロは、現代の科学技術と異世界の魔法を組み合わせ、飛行機を開発する。飛行機の登場により、戦争は新たな局面を迎えることになった。 戦争が勃発すると、アンジェロは仲間たちと共に飛行機に乗って出撃する。追放された王子が突如参戦したことに驚嘆の声が上がる。同盟国であった隣国が裏切りピンチになるが、アンジェロの活躍によって勝利を収める。その後、陰謀の黒幕も明らかになり、アンジェロは新たな時代の幕開けを告げる。 アンジェロの歴史に残る勇姿が、異世界の人々の心に深く刻まれた。 ※書籍化、コミカライズのご相談をいただけます。

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...