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第13章 どうやら犯人は八虐の不道のようです。

修羅場 明山散る?

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 俺たちを助けてくれた馬車は急停車。
王女様はその馬車から飛び降りると、青ざめた顔の俺に向かって何か声をかけようとする。
まずい。このままではみんなにバレてしまう。
そう思った俺はゆっくりとその場から立ち去ろうとするのだが……。

「こんにちは明山さん。お久しぶりです」

純粋なきれいな笑顔で彼女は、ニッコリと笑った。



 「やめろ。止めるな。鈴木ィィ。こんな可愛い子を僕に紹介もしてくれないなんて!!!」

「落ち着いてください。英彦。きっと何か理由があるのだ。今回のお前は間違っている」

暴走しそうな英彦を鈴木さんが羽交い締めで止めている。
これで、俺が王女様と知人関係になったという事をこの場で初めてみんな(簀巻以外)が知ったことになるのだが……。
先ほどから黙ってなにも言わない黒と妙義を見るのが怖い。
そんな俺の思いを知るよしもなく。
王女様は羽交い締めにあっている英彦の事が不思議に思っていらっしゃるようだ。

「あの……あの人はどうしたんですか?」

「いや、気にしないでくれ。あいつは気にしちゃ駄目だ」




 その時、いきなり妙義が跪き、女王様に頭を下げて……。

「──申し訳ありませんでした王女様。こんな我々をお助けなさるなんて…お手を煩わせてしまい申し訳ありません」

…と深々と頭を下げて謝罪する。
まるで騎士が王に跪いて許しを乞う姿だ。
そんな妙義の姿を俺たちは初めて見る。

「いえいえ、気にしないでください。妙義家。
私はたまたま、この先に用があっただけですから。急ぎの用事で少しですね」

恥ずかしそうに照れながらも、王女様は妙義からの謝罪を快く許してくれたようだ。
確かに、彼女には助けてもらったんだ。
お礼は言わねばなるまい。

「ありがとう。マナスル王女。助かったよ」

俺も妙義のようにお礼を言おうとしていたのだが……。
その瞬間、妙義の剣が俺の頚に添えられる。
あと少しでも上に向ければ、本当に首を落とされるくらいの隙間しかない。

「オイッ!! それ以上無礼を働くな。撥ねるぞ」

脅された。妙義に脅された。

「あの……失礼ですが、お久しぶりでございます。マナスル王女様。僕は…あの時の……」

「アアアアアア!!!!! あなたってもしかして!!」

簀巻が王女様に話しかけようとすると、その発言を遮るように黒が会話に割って入ってきた。

「もしかしてマナスル? 久しぶり~」

…と馴れ馴れしそうに、王女様に声をかける黒。
「さすがに、これはまずいだろう」と思い妙義を見ると、彼女は立ったまま真っ白になっている。

「そういうあなたは黒ちゃん? 元気そうですね。よかった~」

「「「はぁ……!?」」」

2人はまるで、久々に再会した友人同士のように、お互いの手を握り、はしゃいでいる。

「あっ、みんなには言ってなかったわね。私たち数年前からの決闘友なのよ」

「「……ねぇ~」」

話に追い付けていけない。
2人は知り合いだったのだろう。その事は理解できた。
だが、こんなポンコツ美少女が、こんな純粋可愛い美少女と仲が良いということが理解できないのだ。
あと、「ねぇ~」と言う部分を2人でハモらせて言う事が腹立つ。
すると、俺たちを代表して妙義が王女様に問いかけてくれた。

「じゃあ、2人は知り合いだったのですか?」

王女様は曇りなき眼で妙義を見つめながら……。

「その通りですよ。私たちは今では仲良し友達です」

…と俺らが望まない返事をしてくれた。



 もしも、王女様が黒の影響でも受けてしまえば、それこそ国が滅びる。
しかし、未だに滅んでいないということは、王女様は生まれもっての純粋さなのだろう。
何者にも染まらない純粋さ。
もうこのまま綺麗な状態でオトナになってほしいものだ。
悪い影響(黒とかの)を受けないまま育ってほしい。
それが王女様へのたったひとつの願い事だ。

「あっ、明山さん。この間はありがとうございました。鏡の怪物から私を助けてくださって」

「いえいえ、あんな修羅場いつも掻い潜っていますから。慣れてるんですよ。アハハハ」

嘘である。
俺はあの戦い以来、すっかり自分に自信をなくし、戦意を喪失している。
今回の旅行も俺を元気付けるために、計画してくれたものだ。
まぁ、予想通りハプニングはあったが……。
とにかく、あの戦いは俺の心に大きな爪痕を残す結果となった。
しかし、そんな姿を彼女に見せるわけにはいかない。
俺は主人公のように強く生きていかなければ……。

「あの明山さん。無理していらっしゃいませんか?」

「………!?」

突然の王女様の一言に、俺は固まってしまう。
そもそも、王女様には俺の考えていることがお見通しなのだろうか。
だが、そうだとしても……。

「いや、大丈夫だ。あっ……それよりも急ぎの用があったんじゃないか? 大丈夫なのか?
執事に怒られたりとかしないか?」

俺は必死に自分の感情を悟られまいと、話題を強制的に変える。
すると、王女様はハッと自らの目的について思いだし……。

「あっ、そうでした!!!
その……では、明山さん。白帝家。妙義家。鈴木。黒ちゃん。知らない人。またいずれお会いしましょう」

王女様はそう言うと、その高貴な頭を下げて俺たちに別れを告げる。
それにつられ、黒以外のみんなが王女様が馬車へと乗るまで、大きく頭を下げ返す。
しかし、黒は俺たちとは違い、王女様に手を振りながら別れの言葉をかける。

「じゃあね~。マナスルちゃん。また遊びに行くね~」

馬車へと足をかけた王女様は、黒からの別れの言葉を聞き、

「はい、次は城の壁を蹴破らないでくださいね~」

…と衝撃的なカミングアウトを行ってから、馬車へ乗り込んでしまわれた。
黒のやつは過去にいったい何をやらかしたのだろう?




 王女様を乗せた馬車はそのまま、北の方向へと走り去っていく。
妙義はやっと安心できるとでも言いたそうに、安堵しているようだが……。
今回の事で、ナイショにしていた俺達の事を怒らないのだろうか。
「不敬を働いたらどうするつもりだったッ!!」とか言われそうな気がしていた。
でも、彼女が怒ってないのなら、考えすぎないでおこう。
そう思いながら、俺は共犯者の簀巻の方を見てみる。

「王女様か。僕だけ呼ばれなかったな…」

何やら独り言を呟いてガッカリしている。
まぁ、あいつがガッカリしているのは、いつものことなので関わらないのが吉だ。

「さぁ~みんな~。王女様にも会えた事だし、旅の再開といきましょう~!!」

今回、もっとも王女と親しくしていた黒が、久しぶりに幹事としての役目を果たそうとしている。
まぁ、ここに残る理由もなくなったので、先に進むべきなのだが。

俺には王女様が何をしに行くのか気になって仕方がなかった。

「マナスルの急ぎの用っていったい」

そう言って馬車の進んでいった方向を眺めていると……。
しびれをきらしていた黒が、大声で俺の事を呼んでくる。

「なにしてるの? はやく、行くわよ。明山さーん?」

どうやら、みんなが俺を待っているらしい。

「あ~分かった。今いくよ」

そう言い返し、俺はみんなの待っている馬車へと向かっていった。



 再び動き始める馬車。
先程はハプニングはあったが、さすがにこれ以上は黒の不運が働くことはないだろう。
ここからはもう平和な旅だといいのだが……。
そう思いながら、俺は窓の外を警戒していた。

「なぁ~。この時期になると、シュオルの町では祭りが開催されるらしい」

ガイドブックを読みながら妙義は呟く。

「へぇ~、どんな祭りなんだ?」

「2日間、住民が当時の魔王軍との戦いの意味を込めて、異様な仮装をするんだと」

前の世界で言うところの、ハロウィンみたいなものだろうか。
モンスターの仮装をしたりして、楽しむ人々の姿が目に浮かんでくる。
平和な風景だ。

「もしかしたら、本物がひょっこり遊びに来ているなんて事もあるかもな」

「ハハハ、それはそれで面白そうだな」

冗談を聞き流すように妙義は笑い、俺は再び新しい町に期待を膨らませながら、外の景色を眺めていた。



 ハッと目を覚ます。
どうやら、少しだけ仮眠をとってしまったらしい。
今は何時でどこなのだろうか。

「みなさん、おまちかねのシュオルの町が見えてきましたよ」

馬借のおじさんが、操縦席から声をあげる。
どうやら、行きは無事にたどり着くことができたようだ。
今、町からは離れている距離に俺達のいるのだが。
祭りのためなのか、賑わっている声が聞こえてくる。

「やっと、この世界に来て、平穏な時間を過ごせるな」

俺はこの真実に少しだけ涙を流しながらも、旅行できる事を素直に喜んでいた。



 町はたくさんの観光客でいっぱい。
あちらこちらで、来店を呼び掛けている店員たち。
店にはありとあらゆる品物が並んでいる。
オバケや、エルフ、獣人、サキュバス。
本物かもしれないし、本物じゃないかもしれない。
これは人々の仮装姿かもしれない。
まだ昼間だと言うのに仮装をしている人々が商品を見たり買ったりと大忙しなのだ。
繁華街の道もなかなか通れない。
ワイワイガヤガヤ。
楽しそうに話したり、仮装を楽しむ人でいっぱいだ。
そんな集団の中に独り。
頭に黒いフードを被り顔を隠す者がいた。
顔にはポツポツ穴が空き、高レベルな仮装をした者が歩いていく。
まるでスポンジの仮装みたい。
町は祭り。伝統的なお祭り。
今夜は住民も観光客も楽しむ大きな祭りの始まりの日……………。
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