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第11章 どうやら殺人鬼はスポンジマンのようです。

集団自粛

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 鈴木さんのお祝い会が開かれてから数時間後。
結局、ミハラからの復讐は行われておらず。
魔王軍関係の事件は収まり、いつも通りの平和な生活を過ごせていけると思ったのだが。

「お客さん減ったなぁ」

「暇になっちゃいましたね」

店内には俺と英彦と黒と店長の4人しかいない。
それもこれも全て、付喪カフェのイケメン鈴木さんがプロポーズ成功した為…という訳ではなく。
大悪魔討伐以降、急速に犯行数を増やしていった殺人事件のせいである。
狙いは不明、犯行理由、正体も不明。
完全犯罪を起こしながら何年間も殺し続けた犯人。
事件現場では死体が乾燥した状態で飛び散っているらしい。
残虐な心の持ち主。
決して自らの手を汚さずに殺害していく犯人を誰も捕らえることはできない。
そんな、犯人のせいで外に出ようとする市民は激減。
必要時以外は家で身を守るというのが日々の日課となってしまったのだ。



 「もう、しばらくはこの店も閉めた方が良いかもしれないね。お客様も来ないし、君たちの通勤も危険だろうし」…と店長がバイト勢にはキツい一言を呟く。
その発言に2人も賛成するかのように頭を頷いているのだが…。
俺にはそんなの納得できなかった。

「そりゃないですよ。殺人鬼って言っても、ただ運が良いだけじゃないんですか? 店長。
犯人もそのうち捕まると思うんですけど」

「そいつは数年足らずで三大殺戮に加えられた事件の犯人だ。
運だけじゃ登りきれないと思うがね」

どうやら、どう言い繕っても店長の意思は変わりそうにない。
実際にそのニュースが知れ渡ると、鈴木さんも妙義も簀巻も休みを貰って行ってしまった。
みんな、自分の身の危険を心配しているようだ。
俺は諦めて椅子に座ると天井を眺め続けるしかなかった。



 そして、ある日、遂に付喪カフェは一時的な休業を迎えてしまった。
俺達がいつものように店に向かうと、鍵がかけられて、そこには貼り紙が貼られていたのだ。

「遂に閉まっちゃったか」

「そうですね」

「学校も長期休みに入っちゃったしね。
終業式も中止よ……」

周りを見ても人通りも少ない。
こうなるのは仕方がないと考えるべきなのだろうが、静かなのは寂しいものである。



 店を後にして3人で歩いている中で、黒は頬を膨らませながら愚痴をこぼしていた。

「こんなの納得がいかないわ!!   何で殺人鬼なんかのために」

そう言ってイライラしているのだが、あの時 店長の提案に賛成していたのはどこの誰だろうか。
しかし、そんなことを彼女に向かって言い放っても何の問題の解決にもならない。
全ては犯人が悪いのだ。
俺と黒が何も変える事が出来ない現状にため息をつく。
すると、英彦はそんな俺たちの顔色を見て、「そうだ!!!  僕たちで犯人を探しませんか?」…とやる気に満ちた表情で言ってきた。

「犯人探しか?
でも、何年も正体を隠しながら過ごしている奴を見つけるなんて」

「その言葉を待っていたのよ!!
見直したわ英彦。私たちならやれるわよ」

彼女は何を根拠にそんなことが言えているのだろうか。
どうも最近、黒は流れに乗りやすい奴になってきた気がする。
それとも、ただ俺が活気を失っただけであろうか。
もしかしたら、俺の心の奥底では未だに平行世界での出来事が引っ掛かっているのかもしれない。
二人がそれぞれ自分の計画を話し合っている中で、俺は自分の掌を見つめる。

「もしもの事があったら、俺はこいつらを守れるんだろうか?」

救われて生きている命を無駄にしたくないという想いと、死ぬのが怖いという恐怖心がまだ俺の心に張り付いている。
そんな状況で戦っても俺はこいつらを助ける事ができるのだろうか。自分に自信を無くした状態で戦えるのだろうか。



 「──ねぇ、明山~。聞いてる?
これからしばらくはあなたの家に泊まりたいんだけど」

俺が立ち止まって自分の状態について考えていると、黒は振り返って俺に許可を求めてきた。
いつの間にかそこまで話が進んでいる事に驚いたが、その提案を特に断る理由もない。

「ああ、好きにしろ」

その返事を聞いた黒たちは嬉しそうに話ながら、道を歩いている。
しかし、俺の家に泊まってどうするつもりなのだろうか。
捜索本部の代わりにでもする気なのか。
あいつらが本気なら止めはしないが、無理はしてほしくない。
その時、二人は今どんな状況かも忘れた様に俺の家に向かって走り出してしまった。

「俺の家に行ったって何にもないのにな。俺の家に…俺の家…俺の家…。

あっ───ちょっ、お前ら待った!!!
もう一回考え直してくれェェェェ!!!!」

部屋の掃除を怠っていた事を思い出した俺は、元気いっぱいの二人を必死に追いかけていく羽目になってしまった。
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