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第10章 どうやらミハラは八虐の大不敬のようです。

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 その時、一人の男がミハラの大群に向かって走り出した。
もはや自殺行為であるその行動を誰も止める事は出来ない。
誰一人として彼のその行動を予想していた者はいなかったのだ。

「山口ドロップキック!!!!!!」

「なッ…貴さ…ブッ……!?」

英彦に剣を振り下ろそうとしたミハラの顔面に山口のドロップキックが炸裂。
ミハラは蹴り飛ばされてそのまま、地面に倒れる。
ミハラ達は立ち止まり、その光景を驚いた表情を浮かべながら見ていた。
その隙をついて、英彦達は無事に鏡までたどり着く。

「おい、どうしてだよぉぉぉ!!! 山口ィィィィ!!!!」

ミハラ達を前にして、彼はこちらに向かって逃げてこようとはしなかった。合流しようとはしなかった。
ミハラ達の視線が山口へと移る。
沢山の視線を浴びながら、山口は俺たちに微笑んでいる。
まるでこうなる運命を悟っていたかのような顔立ちである。

「明山君、やっぱり私はこの世界を置いて行くわけにはいかないんだ。だから行け!!!」

山口の叫びが俺をこの場から突き放そうとする。
しかし、俺にはそんな事はできない…できるはずもなかった。
俺は死ぬ覚悟で山口を助けにいこうとするのだが、それを慌てて英彦が止める。

「おい、まっ…英彦あいつを……山口を!!!」

白魔は静かに鏡の中へと入っていき、片腕を出していた。
そして、英彦がその片腕を掴みながらも必死に俺が飛び出さないようにと俺の腕を強く引っ張る。
そして、彼らは山口を置いて鏡の中へと入っていく。

「ちょっ、まだきっと助かる方法があ……」

その時既に、俺の体の半分は鏡の中に入ってしまった。

「私は生きたいなど言ってはいないよ。じゃあな元気でやれよ。そっちの平行世界の私にもよろしく伝えといてくれ」

山口の悲しそうに笑っている表情に俺は何の返事も返すことが出来なかった。
じわじわと全身が鏡の中へと入っていく中で、俺は少しでも手を伸ばそうとした。
届かせようとした。
鏡の中へと入っても、もう手が届かない位置にあっても……。
俺の意識がだんだん消えていく中でも必死に……。
しかし、俺は最後の最後で彼の希望にはなれなかった。







 そして、俺達がいなくなった平行世界。
そこにいるのはミハラ達と山口だけである。

「貴様一人残った所で…我が叛逆者共を逃すと思っているのか?」

「鏡があればどこへでも行ける…鏡の付喪人の能力のひとつ」

ミハラ達は山口の周りを円になって囲んでいる。
彼は今、あらゆる方向からヴォーパールの剣を向けられている。

「私、いや、もういいか。
一人をそうやって数人で囲むとは……自信ないのか?」

彼は命乞いもせず涙も浮かべずに、じっとミハラの顔を見ている。

「俺を殺すなら殺せよ。その方が最後の叛逆者として伝説に残るだろ?」

山口はそう言うと、膝を地面につけて膝立ちを行った。
逃げるという意思を持っていないことの証明だろうか。

「フッ、たしかに…貴様ほどの魔力。
我も貴様と戦おうとは思わん。
まさか、そんな爪を隠しておるとはな。
この世界のメインディッシュは貴様であったか」

ミハラは彼の中に見たのだ。
彼の体の周りをうごめいている強大な魔力。
ミハラはいつものように侮辱ではなく、少し見直したような感情を抱いているのだろう。
戦いを楽しもうとしていないのが証拠である。
彼はヴォーパールの剣を天に掲げた。

「貴様の斬首は神の我にこそ相応しい」

そう言ってミハラは、自身の持っていた剣を山口の首を切り落とす為に振り下ろす。
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