上 下
158 / 294
第10章 どうやらミハラは八虐の大不敬のようです。

迫り来る絶望

しおりを挟む
 あれから何年たっただろうか?
彼は何百年も前から任務を遂行しようとしていた。
それはこの世のあらゆる世界の過去 未来 現在 が記された禁断の書物。
宇宙が滅びても消え去らない書物。
創歴書のオリジナルを手に入れることである。
だが、天界の神が保管していると言われているその書の入手は不可能に近い。
彼はそのために何百万以上という自分を犠牲にした。
鏡に自分の姿を映して死んでいく日々。
彼がどのような感情を抱きながら戦ったかは分からない。
そして、今から10年前。
なぜか彼は創歴書を手に入れていた。
不可能を可能としたのだ。
何百万という自分の死体を踏み越えて…。
何百万という死を体験して…。





──────────────────────────

 「さぁ、どうする? 叛逆者」
「1と無限。勝算は猿でも理解できるがな」

ミハラ達の忠告がグッシリと俺にのし掛かってくる。
逃げても戦っても、殺されるのは目に見えている。
無限に増える事ができる敵のなんと恐ろしいことだろう。
今にも自分の心臓を剣で突き刺して自決したい。

「お前……いや、お前ら。そうか。こりゃ、この世界をここまで破壊できた訳だ」

俺は平然を装って彼らに言った。
集団戦略で世界制圧なんて……なんとも嫌な話である。



 「では、そろそろ我も貴様は見飽きた。しかし、この世界も飽きてきたな。次は貴様の世界に行ってもよいかもしれん」

そう言ってミハラは俺を蔑むような目で見つめてくる。
俺の世界に来る。
それは俺のあの世界を滅ぼすというのだろうか。

「…………」

「そう、怒るな。旅とは良いものだぞ。叛逆者よ。
見るも珍しい新鮮な物を見る事ができる。
どの世界に行っても異なる物が見れる。
旅は我を飽きさせる事なき有意義な時をくれる」

そう言ってはいるが、こいつらは旅だけで終わるような奴ではないと思う。

「旅で巡る世界は広い、数も多い。そのぶん知識も多い。
貴様は万物を知ることは出来ぬだろうが、自分の世界で小さな事でも知識を得たいという意識が大切なのだ」

「貴様の世界は我を楽しませるものかな?
楽しみだ。貴様の世界に行けるのが」

「数百年間の任務で無駄にした時間を我のために使わねばな」

ミハラ達は完全にこの世界からいなくなってくれるのだが。
俺の世界に進軍するのだろう。
そして、世界を壊してまた次の世界に……。
無限を味わい尽くすまで彼らは止まらないのだ。
これ以上彼らを進ませてはいけない。



 「悪いが、それはさせない。お前らの旅は此処で終着なんだ」

俺は死を受け入れる覚悟を決めた。
無限を倒すなんてできる気がしない。
勝つなんてできる訳がない。
だが、ここで俺が止めなければ誰が奴を止めるのだろうか。
別の世界を当てにしてはならない。
俺は腕が恐怖で震えるのを必死に抑えながら、自身の財布の中身を覗きこんだ。
中の小銭は少ない。
連戦続きでバイトも出来ずにお金を稼げていないからである。
この近くに銀行でもあれば、通帳から金を下ろすことができるのだが。
そもそも、職員がいないのでどうにもならないのだ。
生き残る確率0%の中、俺は自害よりも辛い道を進むのである。
彼らに向かって歩いているのだが、五百円モードで体力を使いきってしまい、フラフラとふらつきながら足を動かす。
しばらく歩き、財布の中から十円玉を取り出すと、俺はそれを勢いよく彼らに向かって投げ飛ばした。

「『十円ショット』」

投げ飛ばされた十円玉はまっすぐにミハラ達の方へと飛んでいく。
だが、銃弾の威力程の十円玉が迫って来ているのに奴はその場から逃げようとはしない。
それどころか奴はどこからか縦長な鏡を取り出した。
そして、その鏡をまるで盾の用に持っている。
まさか、それで十円玉を防ごうと言うのだろうか。
その行動に俺は目を疑ってしまった。
誰にも止められることなく、まっすぐに十円玉は鏡に向かっていく。



 そして、十円玉が鏡に当たる。そう思ったときである。
十円玉は海に落ちた石のように、鏡の中へと入っていったのだ。
そう俺は忘れていたのだ。俺がどうやって鏡の世界へ来たのか。
鏡を出入り口にして入った事を忘れていた。

「しまった!?」

十円玉はこの世界から消えて、どこかの世界に持っていかれたのだろう。
どこかで誰かがあの十円玉を食らって死んでしまうのかもしれない。

「これで我には貴様らの攻撃が通じない事が分かっただろう?
やはり、口で伝えるよりは実践した方が良いな」

ミハラはそんな事を言って退屈そうにしている。
自分との力の差を少しずつ見せつけて、俺の心を壊したいのだろうか。
だが、そのお陰で、こいつらとの戦いに飛び道具は無意味だという事が分かった。
俺は再び財布から小銭を取り出すと、今度は俺の必殺技で仕留めようとしていた。
もちろん、手に持ったのは五十円玉。
俺は必殺技を放つ構えを取ると、僅かな希望に賭けて技名を言い放つ。

「『五十円波動光線』」

輝かしく眩しい光線が俺の掌から放出された。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

幻想美男子蒐集鑑~夢幻月華の書~

紗吽猫
ファンタジー
ーー さぁ、世界を繋ぐ旅を綴ろう ーー 自称美男子愛好家の主人公オルメカと共に旅する好青年のソロモン。旅の目的はオルメカコレクションー夢幻月下の書に美男子達との召喚契約をすること。美男子の噂を聞きつけてはどんな街でも、時には異世界だって旅して回っている。でもどうやらこの旅、ただの逆ハーレムな旅とはいかないようでー…? 美男子を見付けることのみに特化した心眼を持つ自称美男子愛好家は出逢う美男子達を取り巻く事件を解決し、無事に魔導書を完成させることは出来るのか…!? 時に出逢い、時に闘い、時に事件を解決し… 旅の中で出逢う様々な美男子と取り巻く仲間達との複数世界を旅する物語。 ※この作品はエブリスタでも連載中です。

異世界の剣聖女子

みくもっち
ファンタジー
 (時代劇マニアということを除き)ごく普通の女子高生、羽鳴由佳は登校中、異世界に飛ばされる。  その世界に飛ばされた人間【願望者】は、現実世界での願望どうりの姿や能力を発揮させることができた。  ただし万能というわけではない。 心の奥で『こんなことあるわけない』という想いの力も同時に働くために、無限や無敵、不死身といったスキルは発動できない。  また、力を使いこなすにはその世界の住人に広く【認識】される必要がある。  異世界で他の【願望者】や魔物との戦いに巻き込まれながら由佳は剣をふるう。  時代劇の見よう見まね技と認識の力を駆使して。  バトル多め。ギャグあり、シリアスあり、パロディーもりだくさん。  テンポの早い、非テンプレ異世界ファンタジー! *素敵な表紙イラストは、朱シオさんからです。@akasiosio

お気楽少女の異世界転移――チートな仲間と旅をする――

敬二 盤
ファンタジー
※なろう版との同時連載をしております ※表紙の実穂はpicrewのはなまめ様作ユル女子メーカーで作成した物です 最近投稿ペース死んだけど3日に一度は投稿したい! 第三章 完!! クラスの中のボス的な存在の市町の娘とその取り巻き数人にいじめられ続けた高校生「進和実穂」。 ある日異世界に召喚されてしまった。 そして召喚された城を追い出されるは指名手配されるはでとっても大変! でも突如であった仲間達と一緒に居れば怖くない!? チートな仲間達との愉快な冒険が今始まる!…寄り道しすぎだけどね。

【完結】失くし物屋の付喪神たち 京都に集う「物」の想い

ヲダツバサ
キャラ文芸
「これは、私達だけの秘密ね」 京都の料亭を継ぐ予定の兄を支えるため、召使いのように尽くしていた少女、こがね。 兄や家族にこき使われ、言いなりになって働く毎日だった。 しかし、青年の姿をした日本刀の付喪神「美雲丸」との出会いで全てが変わり始める。 女の子の姿をした招き猫の付喪神。 京都弁で喋る深鍋の付喪神。 神秘的な女性の姿をした提灯の付喪神。 彼らと、失くし物と持ち主を合わせるための店「失くし物屋」を通して、こがねは大切なものを見つける。 ●不安や恐怖で思っている事をハッキリ言えない女の子が成長していく物語です。 ●自分の持ち物にも付喪神が宿っているのかも…と想像しながら楽しんでください。 2024.03.12 完結しました。

加藤貴美華とツクモノウタ

はじめアキラ
キャラ文芸
――あ、あれ?……僕、なんでここに?……というか。  覚えているのは、名前だけ。付喪神の少年・チョコは自分が“何の付喪神なのか”も、何故気づいた時住宅街でぼんやりしていたのかも覚えてはいなかった。  一体自分は何故記憶を失っていたのか。自分は一体誰なのか。  そんなチョコが頼ったのは、加藤ツクモ相談所という不思議な施設。  所長の名前は、加藤貴美華という霊能者の女性。そこはなんと、政府から認可された“付喪神”に絡む事件を解決するという、特別な相談所で。

少年剣士、剣豪になる。

アラビアータ
ファンタジー
 此処は架空の王国、クレムラート王国。木剣の音を聞くだけでも身の毛がよだつ程、武芸が嫌いな少年ルーク・ブランシュは、とある事件で恩人を喪ってしまう。恩人を葬った剣士、コジロウ・ミヤモトに一剣を見舞い、恩人の仇を討つため、一念発起、ルークは剣の修行に出る。  しかし、そんな彼の行く手を阻むのは、山賊野盗に悪剣士、ルークに恋する女達。仇の片割れハーラ・グーロに、恩人の娘もルークを追う。  果たしてルークは、剣の腕を磨き、仇を討てるのだろうか。

【完結】博士の実験

松竹梅
ファンタジー
研究者がとある実験を...

記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派
ファンタジー
 勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"  その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。  そんなところに現れた一人の中年男性。  記憶もなく、魔力もゼロ。  自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。  記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。  その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。 ◆◆◆  元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。  小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。 ※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。 表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。

処理中です...