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第10章 どうやらミハラは八虐の大不敬のようです。

賭博水晶伝 簀巻

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 一波乱過ぎ去った後の理市の山奥にある廃城。
そこにはかつて大悪魔が住んでいた場所なのだが。
今、その悪魔を訪ねてきた者が彼の家の前にいるのだ。

「おーい。エルター。話があるんだが?
探し人がいてな。お前は情報屋としても名高いだろ?
おーい。留守か?」

その男は角砂糖を口の中に入れてまるで飴玉のようにペロペロと舐めていた。
その男は開かない門の前でしばらく待っていたのだが、そのうち諦めて帰っていった。








 「はぁ、今日も出かけるか」

場所は変わって、ここは国市。
一人の男がカフェから出ていって今日も平和な空の下、午後の捜索を始めるのだ。
メガネをかけており、いつものようにバイトの制服を着ずに、ダボダボの茶色い服を着て、まるで旅人のようにさすらい歩く男。
彼は、簀巻きにされていた男である。
彼はとある宗教に長い間入っていたのだが、ある日を境にその宗教を止めてしまったのだ。
その時に簀巻きされて捕まっていたので、あだ名が簀巻きにされていた男なのである。
ちなみに、彼は現在付喪カフェでバイトをして暮らしている。



 そんな彼が一体何を捜索するのかと言うと……。
ペット?違う
迷子?違う
彼女?あり得る
金?たまに探している

正解は「自分」である。
おっと、これは真実なので怒ってはいけない。
現在、彼は自分の記憶を少しだけ失くしているのだ。
生まれ育った町、思い出、町人は覚えているのだが。
彼が記憶を失っているのは名前なのだ。
故郷の名前、家族、友人、思い出で訪れた場所の名前。そして自分。
彼は今までの名前を忘れてしまったのだ。
だから、彼は、自分の頭の中にあった風景の場所を探している。



 おそらく今日も故郷の手がかりを探しに……。

「今日は、当たる気がする」

だが、彼の捜索は一週間で終わってしまった。
彼は全てを諦めてのんびりと暮らしながら、スクラッチくじを買う日々を過ごしているのだ。
そして、数分後。

「外れたァァァァ。どうしてだ? 僕の幸運は今日じゃなかった?」

そう言いながら彼は今日も宝くじ売り場を後にするのであった。


 「さぁ~1番走る走る~」

次に彼が訪れたのは、競馬場。
なぜ異世界に競馬場があるか分からないが、あの世界に似ている世界なので考えてはいけない。
とにかく、彼は競馬場に来ていたのだ。

「おら、いけいけ!!  進め進め!!」

彼は馬券を握りしめながら、必死に戦況を見守り続けていた。
彼の付喪神の能力は水晶。
写し出した人の過去を見ることができるのだ。
しかし、彼はそれを商売としては使おうとしない。
その能力を使えば、金庫の暗証番号や落とし物の場所、探偵…などいろいろと仕事が出来るのだが彼はそれをしようとはしないのだ。



 場所は変わって、ここは病院の病室。

「それで、愚痴を言いに俺の所に来たの?
………いや、帰れよ!!」

そこにはかつて大悪魔を倒した男が一人。
それは俺、明山である。
俺はあの後、駒ヶと共に病院に緊急搬送されたのだ。
駒ヶはあの人型の敵達と一人で戦っていたので、その疲れからか英彦と共に、1日たった今も眠っている。
ちなみに俺は五百円モードでの戦闘のしすぎのせいか、戦闘も立つことも出来ない。
やはり、あのモードは少し控えるべきなのだろう。
そのせいで、俺はエルタ討伐の表彰式にも賞金の受け取りにも行けていないのだ。
俺の代わりに黒と妙義が行ってくれたらしいが、またあいつらが倒したと思われるのではと今でも焦っている。
そんな心境の中、簀巻きだった男が見舞いに来てくれたのだ。



 「おいおい、冷たいな。
僕はみんながいない間、鈴木さんとみんなの分を頑張っているんだぞ。
愚痴くらい聞いてくれても」

簀巻きだった男は病室の椅子に腰かけて、俺との話し相手になってくれているのだ。
そんな彼の声のトーンは次第に低くなっている。
やはり流石にいきなり帰れはまずかっただろうか。

「───そりゃ感謝してるよ。
でも、お前は毎日スクラッチくじや競馬の愚痴しかないだろ?
せめて他の愚痴を言いにこいよ」

照れ隠ししながらも俺は感謝の念を伝えたのだが。

「おいおいそりゃないだろ?
そしたらわざわざ、こんな所に来る意味が無くなっちまうよ」

「普通には来ねぇのかお前は?」

予想外の返答である。
はぁ、神様どうかこいつに一発でも殴れるくらいの元気を俺にください。
俺は心の底からそう願った。



 「なぁ、明山さん。他の話があるんだが聞いてくれよ」

すると突然、簀巻きだった男の気分が落ち込み始める。
よかった。
どうやら今日は愚痴だけではなかったようだ。
俺は簀巻きだった男の生活の変化に喜びを感じながらも、彼の別の愚痴を聞いてやることにした。

「実はさ。最近、公園にある自販機の下に金を落とした気がしててさ。
毎日、落とし物を探しにいってるんだよ」

「それ自販機の下に金があるか探してるんだよね? お前の落とし物じゃないよね」

俺のツッコミには触れることもなく簀巻きだった男は愚痴話を続けた。

「それで、公園だからかな?
よく子供たちが来てるわけだ。
僕が毎日行っているとな、子供達が俺に興味を持ちはじめてさ。
金を探している俺を哀れんでくれてさ。
子供たちなりにいろんな物を分け与えてくれるんだよ。
砂利とか、石とか、空き缶とか」

「それ、ナメられてるだけだよな。完璧に下に見られてたよな」

「──それでさ。そんな子供たちとの時間が二週間くらい続いてな。
最近では毎日二…三十人くらいの子供達が俺にいろいろと分け与えてくれるんだよ。
紙とか岩とかナイフとか」

「コワッ、殺しに来てるじゃん!! 殺人起こりそうじゃん!! そりゃそうだよな。愚痴を言うのも当然だよな」

この男がここまでナメられる理由はよく分からないが哀れに思えてしまう。

「──それでさ。ある日、ある一人の少女が紙を持ってきたんだ。
俺はいつもの事か…と自販機の下に手を突っ込んで今日は無いかと探してたんだよ…………」
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