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第9章 どうやらエルタは八虐の不義のようです。

エルタとの戦い

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 時は現在へ。

「──おい、生きているよな? 駒ヶ回斗。お前は階段から落ちたくらいでくたばるような男ではなかったはずだが」

場所は代わり、駒ヶ回斗達のいる場所に移る。
階段から落とされた駒ヶ回斗は、大の字になって横になっていた。

「──お前は、英彦なのか? はぁはぁ、なぜあの一瞬で俺の目の前に」

「う~ん。その質問は少し違うな。俺は英彦。いや、英彦の一部?
まぁ、とにかく英彦ではない。英彦が生きてきた英彦の一面。あいつが幼い時に契約を交わして、あいつの成長を共に過ごしてきた。それがこの大悪魔エルタである。
───もちろん俺を英彦の体から追い出しても英彦には何の影響もない。ハッピーエンドだろ?
追い出せることが出来ればな」

英彦は駒ヶの前にしゃがみこみ、その顔色を伺っている。
狙うには充分すぎる距離だ。
駒ヶは手に持っていた剣を思いっきり英彦の喉元に向かって突きつける。

「!??」

しかし、突きつけていたはずの先には英彦の姿がない。
一瞬で目の前から消えたのだ。
何の行動もなく、瞬時に……。

「おい、危ないだろ?
仮にもこの体は英彦の物だ。お前は助けたいのか? それとも助けたくないのか?」

駒ヶ回斗が起き上がって辺りを探すと、階段に英彦は座っていた。

「次にお前が俺の姿を見たとき……。お前は始末されているのだ」

「なんだと!?」

駒ヶが目を見開いて驚いた瞬間、また駒ヶの視界から英彦は消えた。


 駒ヶが辺りを見渡すが、英彦の姿はない。

「さよならだ。駒ヶ回斗。お前は英彦に殺されるのだ。素晴らしい慈悲だろぉ?」

ただ虚空から声が聞こえるだけである。
駒ヶは警戒を解かずに剣を構えて自分の身を守ろうとするのだが。

「それではなァァァァァァ!!!」

駒ヶの背後に立った英彦は持っていた刃物を、駒ヶの背中めがけて振り下ろす。
その時、

「やめろ。英彦」

声がする方向に振り向いた英彦の顔に、投げつけられたのは十円玉。
その衝撃によって英彦は吹き飛ばされてしまった。

「────やっと俺の出番だな」

主人公はいつも遅れてくるのである。



 「──大丈夫なのか? 駒ヶ 生きてるよな?」

俺は、床で横になっている駒ヶに駆け寄る。

「当たり前だ。しかし、気を付けろよ。あいつは英彦だが、英彦じゃない。まずはあいつを追い出すんだ」

「──なるほど、乗っ取りって事だな?」

俺は英彦の吹き飛んだ方向を凝視する。
だが、埃が舞い上がっていて英彦の姿は確認できない。

「見えないな」

すると、焦ったように駒ヶは俺に向かって警告を発した。

「おい明山。お前の背後だ。後ろに気を付けろ」

俺は駒ヶが言った通り、振り返ったのだが。
そこには誰もいない。

「おい、駒ヶ。こんなときに嘘をつくなよ」

「なぜだ。また俺の視界から消えたぞ」

顔色を真っ青にして驚いている駒ヶは、後で病院にでも連れていった方がいいのかもいれない。



 「いや、上だ。明山!!!」

駒ヶが天井を見上げて叫んでいる。
今度は上だと言っているが、どうせまた嘘なのだろう。
俺は疑いながらも上を見上げてみることにした。
そして、俺の目に写るのはまっすぐ刃物を突き立てて俺に向かって落ちてくる英彦の姿だった。



 「──全く、逃げ足だけは速いようだな?」

間一髪で避けることが出来たのだが、気配すら感じないのは恐ろしいものだ。

「あっぶねぇ。お前、もしかして瞬間移動してるのか?」

「ああ、そうだ」

エルタは何の嘘もバレたという動揺なく、ハッキリと認めている。

「俺は魔法使いと言っていいのかは分からないが魔法使いだ。
それも魔法王レベルかな?
今度から魔法王 エルタと名乗っても恥ずかしくない程に魔法は使えるぞ」

「そうか。じゃあ回復魔法も使えるな。
よかった よかった。これで一方的ではなくなるからな」

そう言ってエルタを挑発すると俺は手に持っていた百円玉を握りしめて、

「『百円ラッシュ』」

怒濤のラッシュ攻撃。
何発もの拳がエルタを襲うのだが、

「そんな腑抜けたラッシュ。どおって事ないのだァァァァ!!」

俺の百円ラッシュはきれいに弾かれていった。
つまり百円が無駄になってしまったのだ。

「こいつ…………」

「どうした? 明山。焦っているように見えるぞ?」

エルタから言われているとは分かっているのだが、英彦から言われているのはムカついてしまう。
余裕そうな表情を見せながらこちらに向かって歩いてくる英彦。

「『五十円波動光線』」

俺は何の躊躇もなくエルタに向かって光線を放つ。
光線は屋敷内を大きく破壊してしまった。
土煙が舞う中で、英彦の体が心配になる俺だったが、その心配はいらなそうだ。

「─────まったく、せっかくの廃城が滅茶苦茶になってしまった。英彦の体がどうなってもいいのか?」

「くっ……」

エルタは魔法を使って作った光の盾で身を守っていたのだ。
エルタは英彦の服についた埃を手で払うと、俺を見て怪しい笑みを浮かべた。
何か企んでいるのは明らかである。

「廃城はもう修繕の仕様がないな。まぁ、仕方がないか。少し惜しいが…発動するとしよう」

「お前……。まさか!?」

エルタはまるで中二病が考えるような怪しげな呪文を唱え始める。
この感覚は忘れられないあの時の感覚である。
しかし、あの時とは呪文の詠唱が違っているのだ。

「……? 逃げろ!! 明山。
こいつが呪文を唱え始めたということは……。
この呪文の詠唱はラグナロク。
こいつは廃城ごと俺たちを灰にするつもりだぁぁ!!!」

駒ヶの叫びは、更にエルタに至福とやる気を与えたようだ。

「そうだ。駒ヶ回斗。これが俺のラグナロク。
いいぞ、焦り恐怖するのだ。
さぁ、どうする? 明山。
あと、数秒で魔力は貯まり技は放たれる。
もしかしたら、この山ごと外にいる奴らも消え去るかもしれんぞ?
フハハハハハハハハハ!!!」

エルタの周りを赤黒い魔力が渦を巻くように集まっている。

「──────やめろ」

「駄目だ。自分の無力さを知りながらあの時の女ように絶望するんだな。
安心しろ悔し涙は蒸発する。
貴様にこれ以上苦しみは訪れない。
貴様が死んだ後、2人の女も送ってやろう」

あの時の女……。あの女……。

エルタの言った言葉が気になってしまう。
俺は逃げるのを止めて少し考えてみることにした。
2人の女とはおそらく黒か妙義のことだろう。
しかし、あの時の女とは……。

「そういうことか。お前なのか。お前だったのか。ならば話は早いな!!!!」

俺はエルタの言った言葉を理解することが出来た。
俺は拳を握りしめる。
どうやら、駒ヶもエルタの言葉の意味を理解したようだ。

「まさか、あの野郎が……。待て、明山落ち着け。今はここから離れることを考えるんだ」

駒ヶは俺の腕を掴み、進行を止めてくる。

「安心しろ駒ヶ。俺は落ち着いてるぜ。いくぞ」

俺は駒ヶに向かって真顔を見せる。
すると、少し安心したらしく、俺の腕を手放した。
瞬間…!!!
俺は全速力で駒ヶから離れると、エルタに向かって走り出した。

「悪いな駒ヶ。落ち着けだって?
落ち着けられない。俺の心は復讐心で煮えたぎっているんだからな。
奴の死に様見るまでは怒り狂える自信があるぜ」

ただまっすぐにエルタの方へと走り出していく。
しかし、エルタも俺の拳が当たるのは待ってくれなかった。

「無駄だ。俺には瞬間移動の能力があることを忘れたか?   魔力が貯まるまで別の場所に移る事も可能なのだァァァ。次に俺の姿を見た瞬間がお前の最後だ」

拳を喰らわせようとした瞬間、エルタの体は目の前から消えてしまったのだ。



 誰の邪魔も入らない静かな場所に移動したエルタは魔力が貯まるまで身を隠していた。
彼は、何の成果もなく死んでいく明山の姿が見たかったのだ。
少女の弔い合戦の失敗。そして無力なままでその少女と顔を合わせなければならないという悔しさ。
彼はそれを望んでいるのだ。

「魔力が貯まるまで…。残り十秒…九秒…八秒…七秒…六秒…五秒…そろそろここから移動するか。二秒…一秒…」

エルタはその場から移動を始め、再び廃城内に戻ってきた。



 「──零。サヨナラだよ明山 平死郎。喰らえラグナロ……」

エルタがラグナロクを放つために姿を見せた場所は俺の目の前であった。

「やはり、ここか!!
悪いな英彦。お前も巻き込んでしまって『百円パンチ』!!」

俺の拳がエルタの脳天めがけて放たれる。

「ウギャァァァァァァ!?
何故移動する位置が分かったぁぁ!?」

その衝撃でエルタは血を吐き出しながら吹っ飛ばされてしまった。
もちろん、ラグナロク発動は失敗してしまっている。
だが、奴の吹っ飛ばされた方向からは未だに呻き声が聞こえる。

「ちっ、しぶとい奴だな。お前は……」

俺は奴にトドメを刺すためにその方向へと向かうのであった。
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