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第9章 どうやらエルタは八虐の不義のようです。

死神さん

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 桟敷が逃げ帰った後、死神さんはウサギさんを抱き抱える。
今度はちゃんと捕まえることに成功したのだ。

「よかった……」

これで一件落着だが、新たなる敵が出現し始めたという事になってしまった。
皆が無事だといいが…と死神さんが考えていると。

「「死神っち。我(妾)らに恐怖しないの?」」

マオとヨーマが恐る恐る聞いてくる。
桟敷の精神を揺らがせる程の事をしでかし、常人とは違う力で立ち向かったのだ。
怪しんだり、恐ろしくなったりすることもあるだろう。
それで皆との関係を変えたくなかったのかもしれない。
2人の表情はまるで怯えたウサギのように悲しい顔をしていた。
だが、死神さんはそんな2人を恐れるはずもなく。

「しませんよ?   どんな方法だろうと、あなたたちの正体がなんだろうと。2人は2人ですから。
それに2人は私たちを助けてくれたじゃないですか」

死神さんは不安な顔つきの2人の頭を撫でてあげる。

「「死神っち!!」」

2人の表情が不安な顔つきから、笑顔に変わる。
そして、嬉しさのあまり死神さんに抱きついてくる兄妹。
死神さんはそれを優しく抱いてあげる。
ハグしてくる兄妹。
彼らだってまだ子供なのだ。誰かに甘えたくなるのだろう。
しかし、死神さんの肌は氷のように冷たい。
任務中なので生きてはいるが、元々はあの世の住人だからである。
2人がこのまま触れていては風邪を引いてしまうかもしれない。
そう考えた死神さんは優しく引きはなそうと考えた。



 「子供ですね2人共。そんなんじゃ英彦さんに笑われちゃいますよ?」

死神さんは冗談混じりで呟く。
もちろん、こんな所を見ても英彦は笑ったりしない。
だが、2人には効果が効いたらしく。

「そうだ。英彦っちにバレたら笑われる!!」
「急に恥ずかしくなってきちゃったよ~」

兄妹は死神さんを解除してハグするのを止めて、パッと立ち上がった。
その後、赤面しながら辺りを見渡して、人が見ていない事を確認する。
そして、いないと分かって安堵する2人。
だが、死神さんがみんなに連絡をしようと携帯を弄っていた時。
再び彼らの表情は不安に飲まれる。
すると、兄妹は死神さんの方を向いて、

「死神っち、今日の事はくれぐれも内密にネ?」「妾達、もうしばらくミンナと過ごしていたいんです」と頭を下げて願い出る。2人のその発言に疑いはない。心からの本心だと言うことが死神さんには理解できた。

「もちろんです」

死神さんは優しい笑顔で2人を安心させてあげた。




 3人で話していた数分後。
何人かがこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
その事に気づいた死神さんとウサギ。
死神さんはウサギを優しく抱き締めると、路地裏から去っていった。
その後をテクテクとヨーマとマオが追う。
死神さん達が路地裏から出てみる。
すると、目の前にはたくさんの人々がそれぞれの目的のために歩いていた。
おそらく、帰宅ラッシュ中なのだろう。
空からは夕日が人々や町を照らしている。

「死神さーん。はぁ、やっと見つけた」

すると、誰かに死神さんが名前を呼ばれた。
そこにいたのは俺と黒、そして英彦。
連絡を受けて走ってきたのだろうか。
三人とも息をきらしていた。

「この子ですよね」

死神さんはそう言って黒にウサギを手渡す。
ウサギは抵抗する事なく、黒の腕の中で抱かれる。

「ありがとう、死神さん。良かったわね~。見つけてもらえて。もう勝手にどこかに行っちゃダメよ。ウサギちゃん」

甘やかされて、ウサギは頭を撫でられている。
慌てて逃げ出そうとするが、ウサギはがっちりと捕まっているので逃げ出すことすら出来ない。
そんな光景が死神さんには少しかわいそうに見えた。

「それじゃあ、集合場所に帰りましょう。みんなに教えてあげないと」

そう言って黒はウサギを抱き抱えながら、人混みをかき分けて走っていく。

「あっ、待てくださいよ」

このままでは黒が迷子になってしまう。
そう考えた英彦は、黒を見失わないようにと、黒の後を追いかけて行ってしまった。

「あっ、待ってよ英彦っち!!」
「お兄様~置いていかないでよ!!」

すると、ヨーマとマオも英彦の後を追って追いかけていく。
その様子を見ていた俺は、やれやれと呆れた表情を浮かべて、

「おい、お前らこんな所で走ったら、道に迷ってしまうだろうが!! 悪い、死神さん。ちょっと先に行ってくる」と死神さんに言い残し皆を追いかけていった。





 「はい、明山さんも迷わないようにしてくださいね」

死神さんは人混みをかき分けて進んでいく俺たちを見送っていた。
その後、完全に集団に俺達の姿が隠れてしまうと、彼女は人混みをかき分けずに周りに合わせたペースで歩きだす。
その時、死神さんは口元を緩ませて、フフッと笑顔を見せた。
その笑顔は誰にも見られていない。
おそらくみんな、自分の事で精一杯なのだ。
そんな雰囲気の中で、死神さんは歩みを止めずに先に行ってしまった皆を追いかけている。
彼女はみんなのいる方向へと走っていた。



────────────

   その時。

「ウッ!?」

周りには、帰宅ラッシュ中の人々が家に帰ろうと急ぎ足で歩いていた。
何も変わらない1日のはずだった。
そんな中、一瞬 死神さんは自身の体に異変を感じた。
下を見ると、地面には赤い液体がポタポタと雫のように垂れている。
そして、目線の先には自身の背中から何者かの腕が貫通しているのだ。

「……自分から別れるのは辛いよな。だから、送ってやろう。気にするなよ。指令完了祝いだ」

死神さんの耳元で誰かが囁く。
その正体を確かめる為、死神さんは顔を後ろに向けようとしたのだが。
貫通していた腕は引き抜かれ、更に出血がひどくなってしまった。
その腹にはポッカリと穴が空いている。
死神さんは、結局その正体を見ることすら出来ずにその場に崩れ落ちていく。

「私にとってお前ほど厄介な者はいない。すまないな。死神。お前だけが邪魔なのだよ」

謎の襲撃者はそう言い残すとその場から逃げるように去っていった。
こうして、次第に死神さんの目の色が虚ろになっていき、彼女の意識は薄れて…………………。
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