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第7章 どうやら四阿は八虐の謀大逆のようです。

運命の再会

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 「明山くん」「明山さんだ」「助けに来てくれたの? 明山」「明山さん。助けて私の偽物が」
「何言ってるの。私が本物よ」「お腹が空いちゃった」「この私を語る偽者め~。罰を与えてやるぅぅぅぅ」「わぁぁぁぁ!!!! 私の癖になんで蹴るのよ!」「なんでこうなるのよ~~~~!!!!」「うわぁぁぁぁぁん~」

俺を見つけた女の子達は俺に話しかけてくる。
それはまるで長い時間俺の事を待っていたように……。
彼女達は可愛い美少女達であった。
黒く長い髪で黒くキラキラした目。
そして……いや、何でもない。
そんな彼女達に俺は見覚えがあった。

「お前……じゃなくて、お前らもしかして黒か?
黒帝 黒?」

彼女達は全員で「そうだ」と返事を返してきた。

「そうか、お前の知り合いだったのか。なら気を付けろよ。敵は変身できる。能力も記憶も変身者のものだ」

山上が隣で小さな声で俺に注意を促してくれた。
だが、この光景は俺に凄まじい影響を与えていたのだ。

「なぁ、山上帰っていいかな?」

俺の発言に呆れた様子になった山上は、

「そうかなら………………ハァッ? お前…せっかく来たんだぞ?分かっているのか?」

「こんな人数の黒が見えてるって事はきっと俺は病気なんだよ。1日の黒を見る限度を超えちゃいそうだ」

「ふざけんなよ。こいつらは偽者だぞ?
本物じゃない。罠なんだ。お前は病気じゃないんだぞ。だいたい、こいつらが本物のわけがないだろ!!!」

山上は黒を指差して怒鳴り声をあげている。
そう言った山上に黒達はイラつきを覚えたのだろうか。

「む~~」

「ベ~~」

頬を膨らませたり、あっかんべーをしたりして山上に全員が不満を抱いていた。



 ここでとりあえず冷静に状況を整理しなければならない。とりあえず、冷静にこの罠についての解説をしておこう。俺たちが入った部屋には何十人もの黒帝黒がいた。罠である。完璧に罠以外の何物でもない。
逆に同一人物がこの一室に何人もいる状態をどうして正常であると言えようか。いや、言えるはずがない。というか俺の今の心境も異常に近い。
この状況を見て正常になれる人なんてたぶんいないはずだ。
だって、自分の知人がさまざまな髪形や格好でこの部屋に集められている。
黒帝黒パラダイス。黒黒パラダイス。
まるで同一人物の写真集を見ているようだ。
いつもは迷惑ばかりかけられるポンコツバイトな彼女がなつかしい。
この中にはおそらく性格も違う黒もいるのではないだろうか。
これほどたくさんの黒がいるのだ。数人くらい様々な性格を持っていても支障には至らないはずだ。
というか、性格を褒める前にまず見た目がすごい。
平行世界の自分とかドッペルゲンガーとかではなさそうだけれど。彼女らは見た目だけが同じなのである。目の位置とか口の位置とか髪の毛の色とか。違うのはそれ以外。再現度1000%。同じホビーかなにかを台などに並べているような感じでも、忍法分身の術的な感じでも説明はしやすいのだろう。しかし、それだけではない。それだけではたりない。
数えきれないほど、さまざまな衣装を着た黒が目の前にいるのである。マネキンが服を着ているような感じだろうか。世界中に同じようなマネキンがあるけども服だけは違うといった感じだ。
それがすごい。なにせ、黒が普段着ないような服装なのだ。新しい一面を見た感じである。
こうして、彼女たちを見ても分かる。ああ、黒なら絶対着ないような民族衣装でも彼女が着ればこんなに似合っているのか。
黒帝黒の非公式ファンクラブがこんな黒を見てどう思うだろう。
きっと写真集は即完売するに違いない。いや、そもそも写真を撮る気はないがね。これは俺の眼に焼き付ける。忘れないように焼き付けてやるのだ。
───安心しろ黒。俺はお前の子の姿たちを墓場まで持っていくつもりだ。
しかし、冷静になって彼女たちを見てみると本当に美人だ。
1人くらい持って帰っても………いや、騙されてはいけない彼女たちは偽者なのだ。
なるほど、これは恐ろしい罠だ。なんという恐ろしい罠であろうか。
今すぐにでも罠にかかりたい。なんて考えてしまっている。
おちつけ俺、彼女たちは黒だぞ? 傲慢ポンコツバイトのあいつだぞ?
くそ、こんなにも黒に見つめられたら洗脳がかかってしまいそうだ。
もうこれだけの属性を持っている黒しか女性として見れなくなりそうだ。
ただ、残念なのはロリ属性と先輩属性がないこと。
いや、もうこの際その2つは切り捨てよう。俺の中からこの2つの属性希望を捨てるのだ。もともと俺はロリコンでもないからな。
ここにいる普通衣装系・仕事衣装系・おしゃれ衣装系・民族衣装・ヤンデレ風・魔法少女衣装(その他もろもろ)に集中するんだ。
いやいやいや、集中してどうする?
これは罠なんだ。それは俺も自覚しているはずだ。
でも、「まるで黒のファッションショーだな」なんてクールに決めれるわけないだろ!!
俺は頑張ってるよ。ここまでよく欲望に耐えたと自分をほめたたえたいよ。
一人くらい口説きたいよ。俺にその才能があるならな!!
あーあ、もう意識しちゃうよ。かわいいんだよ。元もかわいかったのに衣装までもかわいいんだもん。俺はあれか? 死ぬのか? これは現実なのか? 俺は夢を見ているのか? 幻覚を見せられているのか?
最高だよ黒黒パラダイス。名字と名前を省略したものだけどなんかいい名前だよ。チキショーーー。
黒黒パラダイス。黒パラ。黒パ。黒ダイス。黒イス。黒ス。
ああ、冷静になれない。ふざけるな。異世界。
俺は清く正しい異世界生活的なのがいいんだ。ハーレムとか無理だ。心臓が持たん。だいたいハーレムとか何時代だよ。江戸か? 平安か?
とりあえず、こんな黒だらけにした魔王軍幹部に言っておきたいことがある。
なんのつもりの罠かは知らないが、こんなものに俺がかかると思われたら大間違いだ!!
俺をバカにしてるのか?
ふざけるな!!
それに黒の存在をこんな風に苔のように扱いやがって。
黒にだって人権があるんだぞ!!
それをこんな風に増やして、衣装まで着させて……。
黒が恥ずかしがるような衣装まで用意して黒をなんだと思っていやがるんだ!!
本当に………………本当に………………!!!!!

「───ありがとうございます!!!!」



 だが、俺はそれだけで終わるような男ではない。
ちゃんと主人公としてやることはやってから、帰るつもりではある。
確かに別にこの世界に送られた特典で美少女達と楽しく暮らしたいとは思ったが。
この世界でそんな人生を過ごせる訳がないのだ。
俺は部屋の天井に向かって声をあげながら話し出した。

「はぁ、ここは良いところだ。なぁ、魔王軍幹部さん。見てるんだろ。どこかからこの部屋を……。この罠の結果を見てるんだろ。うまくいったなこうやって罠にかかってしまったよ。
正直、この中に本物がいるかは俺にも区別がつかない。皆同じだもんな。俺には無理だ」

俺はこの罠を観察しているであろう魔王軍幹部に対して話しかけているのだ。
その様子に山上は疑問を抱いている様子だったが、

「そう言えばあんたらが殺したいのは鍵の獲得候補者だったよな。それならここにいるぜ。鍵の獲得候補者は俺だ。良かったな俺が罠にかかって。俺も黒に殺されるなら悔いはないよ」

その時、一斉に黒達は俺に向かって襲いかかってきた。



 その瞬間、山上は部屋中に隠していた張り巡らせておいた紐を引っ張って、全ての黒を縛り上げる。
そして、更に強く紐を引っ張ると黒達は締め殺されていった。
黒の顔をした者達から大量の血が地面に落ちる。
なんだかグロくて見ていられない。
だが、あいつらは偽者で黒ではないと言い聞かせる。
それにしても、もしも本物が混じっていたらと考えると。
いや、考えるのはやめよう。
自分の不吉な妄想を払拭していると、山上がこちらを向いている。

「──フッ、良かった。気づいてくれたか。俺の作戦に……」

魔王軍幹部さんは鍵の獲得候補者の命を狙っている。
だが、鍵の獲得候補者が誰か分からないはずだ。つまり、鍵の獲得候補者が誰か分かればそちらを襲いに来ると考えての作戦だった。はずである。多分……。
俺は肩の力を抜いてホッと一息つきながら山上に話しかけた。

「当たり前だろ。これくらいの事。
しかし、時間稼ぎの演説ご苦労様だ。偽物がお前を見ている間に気づかれなかったのと、俺が死ななかったのは良かった」

山上は紐をほどきながらそう答えた。
よく見ると、山上の周りには紐が一本も見当たらない。

「まぁ、全員で襲いかかってきたのは本当に良かった。俺も正直不安だったんだ。でも、敵はどっちがターゲットか分からなかったらしいからな。教えてやっただけだよ」

俺は山上に笑顔でそう話しかける。



 さて、更に部屋を出てしばらく薄暗い廊下を歩くと先程よりも大きな扉を見つけた。
いかにもボス部屋の扉という雰囲気が漂っている。

「この先だよな。絶対ここはボスの部屋っぽいし」

俺は山上に確認をとった。
そんな俺に山上は静かに頷いて答える。

「いいか。明山。3から数えていくから。0で突入するぞ」

山上はドアノブに手をかけて俺に話しかけてきた。

「3…2…1…」

1で突入した山上。

「0はァァァ?」

俺はタイミングを逃して、後から部屋に入ることになってしまった。



 扉の先にはとても廃ビルとは思えない洋風な部屋だった。
まるでラスボスがいるような雰囲気の洋風の部屋だ。
壮大なBGMでもかかりそうである。
その奥で豪華な椅子に座ってフードを被って顔を隠している女性がいた。

「あら……やっと来たのね。人質はちゃんと無事だからね。さぁ、そこのあなた、こっちに来なさい」

そう言いながらフードを脱いだのだが、

「あっ…。あなたは!?」

「えっ、あの時のお嬢さん? あっ…どうも」

運命の再会である。
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