上 下
37 / 294
第5章 どうやら王レベルは仕事をしているようです。

2人の不安に妙義は動く

しおりを挟む
 先ほどの場所から少し離れた道。

「キャァァァァァァァァ!!!」
「何よ。この水、ストカー。ストカーよ」
「いったい何でこんな事に……」

三人は横一列で流水から逃げていた。彼女らを追うのは八剣から放たれた流水。元は一滴の雫のようなものであったのだが、それが流水のように大きくなって彼女らを追跡してくるのである。

「妙義さーん。何か策を、私達をヘルプできるような作戦をー!!!」
「そんな事言われたって………。いや、一つある」

どうやら妙義は作戦を思い付いたようだ。

「「それはいったい?」」

期待するようなキラキラとした目で黒と女性は妙義の方を見ながら走る。

「私がこいつの本体を叩く。
恐らく本体はさっきの女で間違いないだろう。私があいつと戦えば少しは足止めができるかもしれない」

妙義はとんでもない作戦を考えてしまったようだ。

「無茶よ。あいつら王レベルの付喪人集団よ」

だが、黒の忠告も聞かず、妙義は足を止める。

「必ずまた会おうな。帰ったらちゃんと食事を食べるぞ!!!」

「あの、それフラグ立ってます。負けフラグ立ってるんですが!?」

女性の言うことも聞かずに妙義は走り出していた。



 場所は再び八剣と山上のいる場所へ移る。

「そう言えば会長はどうしたんだ? 今日は姿が見えないけど?」

山上は辺りを見渡したり、メンバーの位置をGPSで確認してみる。異世界らしからぬハイテクな機器。しかし、それも近代都市である数市の技術だからこそ。ツッコみは不要である。

「会長? 皆であいつらの方向に先回りしているわ。あと、集中させてください。見失います」

「お前……チッ、ああすまん」

不満そうに答えた山上だったが、大通りをチラッと見ると。

「おい八剣。自分から来やがったぞ。どうするんだよ。どっちがあいつの居場所を吐かせるんだ?」

先程の三人の女性の中にいた一人がこちらに向かってきた。
それも猛ダッシュである。

「私は遠慮する。拷問しかできない。下手したら彼女を溺死させてしまうわ。こういうのは副会長である貴方こそが素晴らしいよ」

山上は煽てられて少し恥ずかしそうにしている。

「チッ、しゃぁねぇ。やるか!!!」

「良いぞーがんばれー。じゃあ仕事は私の手柄ってことで。足止めご苦労様です」

立ち去ろうとする八剣を山上は呼び止める。さすがに今の八剣の発言には納得できないようだ。

「おい待てよ。それは明らかに手柄横取りじゃねぇか。今回の仕事が達成できてねぇじゃん」

すると、八剣はさらに山上に対してイラついてきたのだろうか。

「そんな訳ねぇじゃない(負けろ。)」

「おい八剣、( )の中に要らん言葉が入ってたんだが?」

「そんな訳ねぇじゃない(負けて楽になれ山上。そして死ね)」

これには山上も流石に、苛立ちをおぼえたようで、妙義のことを無視して八剣を睨みつけている。もともと犬猿の仲である2人にとってはいつも通りの行動なのだが、妙義には何が何だか理解できずにその争いを見ていることしかできなかった。

「よし分かった。八剣表出ろ。どっちが強いか今ここで試してやる。


「(山上さんじゃ私には勝てないわ。私よりも弱いし…。)」

「いや、それもう( )使う意味なくねぇ…?」

「うるせぇな。あんたなんかいなけりゃ私が副会長なんだよ。とっととそこの騎士に斬り殺されろよ!!」

「てめぇ、先輩の俺になんてこと言うんだバカ野郎!!!
てめぇこそ、そこの騎士に斬り殺されとけ!!!」

「じゃあ、あんたは斬り殺された後、カラスにでも食われて栄養分になってな!!!
お前にはそれ以外に価値なんてないんだから。」

「てめぇこそ、その蛇口の能力を持って砂漠に消えろ!!!
砂漠で能力の分も自分の水分も出し切って死ね!!
世界に貢献しろ!! 拷問しかできないサイコパス女め!!」

犬猿の仲というより、ハブとマングースだ。
もはや彼らの頭の中には妙義の事なんて微塵もない。このまま、彼らの口喧嘩を見届けたいと妙義は考えたものの、実際には二人の口喧嘩を見てるほど、妙義は暇ではなかった。

「おい。いいか?」

「「何か、すんません!!!!!!!!!」」

口喧嘩は妙義の一言によって中断される。彼女の般若のごとき怒りのオーラが、山上と八剣の恐怖を呼び覚ましたのである。

「あと、個人的にはあの流水を止めておきたいからお前と戦いたいのだが?」

そう言って山上は八剣を指差す。「えっ? 私?」と言いたそうな八剣の表情に妙義はうなずく。
妙義自らのご指名によって対戦相手は決まったようだ。
山上は薄ら笑いをし、八剣は山上を殺意を向けた目で睨み付ける。

「分かった。じゃあ戦おうか。山上後はよろ」

「しゃぁねぇ。本気出して殺すなよ。でも、お嬢さん八剣はボコボコにしてやってくれや。それじゃあ!!」

新たなる口喧嘩の火種を残して、山上は逃げていった二人を追って去っていった。



 こうして路地裏に残された二人。
妙義は剣を取りだし構える。
八剣は掌から小さな雫を出した後、流水を蛇のようにくねらせて戦闘態勢を整えている。

「溺死しても後悔するなよ?」

いきなり三発の流水を発射。
流水は妙義の周りをとぐろを巻くように宙を動いている。

「───死にやがれ!!!」

妙義の周りにあった三発の流水が一斉に妙義に飛びかかった。

「フンッ!!!!」

しかし、妙義の振り下ろした剣により、流水は辺りに飛び散る。
流水の形を形成していた水たちは、妙義の体内に入ることなく、地面に落ちていき、染み込んでいった。

「ふぅぇ!?」

呆気ない声を出して驚く八剣。
まさか、自分の流水が断ち切られるとは思ってもみなかったのだろう。

「──あんたいったい何の付喪人だよ」

八剣は妙義の力に震えながら、彼女に尋ねる。

「私か? 私は一応、付喪人だが、付喪神と契約はしていないぞ」

「仕事上の奴かよ。
あはははは。あんた面白いわ。でも、あんた位の実力なら強い付喪人になれるだろうに、どうして契約しないの?」

八剣が笑って質問してくる事についてあんまり考えたことなかった妙義は少し困った様子でその理由を思い出し始める。

「私が……契約……。ああ、そういえば、私が付喪人になった理由は自分の支配力が高かったし、付喪人になれば更なる強い奴に会えると思ったからだ。契約して能力を手にいれたかったわけではない。強者との戦いを。それだけだよ?」

すると、先程まで笑っていた八剣は、急にガッカリとした表情を浮かべる。

「あ~あ~、もったいないな。生まれた時から支配力が高いのに付喪神と契約して能力を手にいれないなんて」

「おい、どうしたんだ。私は何か悪いことを?」

いきなりの感情の変わりように妙義も少し心配している。

「いや、あんたには関係無いことだ。でも、辛いな」

八剣の目は何かを物語っていたかのように寂しい目をしていた。



 付喪人とは仕事名でもあるが、『基本的にはその者が付喪神と契約を結び、その付喪神の能力を宿した状態』の事を指す。
だが、付喪人になるには【支配力】というものが必要となっている。
支配力とは、自分が付喪神を宿せるかどうかの数値である。その数値が低いと宿す事は好ましくない。その付喪神と契約するのは危険である。逆にその数値が高いとそれに応じた強さの付喪神を宿して能力を手に入れることはできる。
ただ、誰しもが付喪人になれるという訳ではないのだ。
その事をよく知っているから彼女は寂しいような目をしていたのだ。

「あんたみたいな才能の未使用がいると、とてもイラついてくる。支配力の高さを自慢してるのに、付喪神と契約をして無い。自慢かよ!!」

八剣は両目から涙を流して言った。そこに何があるのか妙義には理解できないが、意味ありげな彼女の返事からはどこか寂しげな様子を受けた。明らかに何かわけありのようだ。

「まさか、あの女。お前たちはそのために?」

妙義は彼女の発言で気づくことができたようだ。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

召喚士の嗜み【本編完結】

江村朋恵
ファンタジー
本編1th~4th完結 蛇足編5th~8th 召喚士達の住む大地がある。 ──召喚獣は強大なドラゴンからペガサスまで、様々な幻獣──。  中でも長い歴史のあるガミカ国。  13歳の誕生日を迎えたパールフェリカ姫は初めての召喚の儀式を行う。  そして、召喚されたのは ── なぜか──  山下未来希(ヤマシタミラノ) 27歳 元派遣社員、現無職。  召喚獣に、人類の敵・モンスターも沢山住む大地にやって来たクールな元OLミラノ。  ミラノは“召喚獣”として“うさぎのぬいぐるみ”の格好に……。  パールフェリカ姫のイケメンな兄達、シュナヴィッツやネフィリムに振り回されつつ……歯車は動き始める。  神による巨大な召喚獣が暴れはじめて――。 ※各プロローグのみ一人称、読み飛ばしOK ・アリアンローズ新人賞(女性向け)一次選考通過 ・MFブックス&アリアンローズ小説家になろう大賞2014 MFブックス部門(男性向け)一次選考通過 ・第六回ネット小説大賞一次選考通過 ○本編1st~4thまで完結済み 一人称は各プロローグのみ、他は三人称です。 ○蛇足編5th~8th執筆中。 形式は本編と同じ 感想欄は閉じたり開いたりしてます。 ◆個人サイトからの転載。 なろうさん https://ncode.syosetu.com/n6108p/ ★空行ありバージョン↓ノベプラさん https://novelup.plus/story/268346707

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

チートな転生幼女の無双生活 ~そこまで言うなら無双してあげようじゃないか~

ふゆ
ファンタジー
 私は死んだ。  はずだったんだけど、 「君は時空の帯から落ちてしまったんだ」  神様たちのミスでみんなと同じような輪廻転生ができなくなり、特別に記憶を持ったまま転生させてもらえることになった私、シエル。  なんと幼女になっちゃいました。  まだ転生もしないうちに神様と友達になるし、転生直後から神獣が付いたりと、チート万歳!  エーレスと呼ばれるこの世界で、シエルはどう生きるのか? *不定期更新になります *誤字脱字、ストーリー案があればぜひコメントしてください! *ところどころほのぼのしてます( ^ω^ ) *小説家になろう様にも投稿させていただいています

公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都
ファンタジー
 異世界に転生して公爵家の娘に生まれてきたエトワだが、魔力をほとんどもたずに生まれてきたため、生後0ヶ月で跡継ぎ失格の烙印を押されてしまう。  跡継ぎ失格といっても、すぐに家を追い出されたりはしないし、学校にも通わせてもらえるし、15歳までに家を出ればいいから、まあ恵まれてるよね、とのんきに暮らしていたエトワ。  だけど跡継ぎ問題を解決するために、分家から同い年の少年少女たちからその候補が選ばれることになり。  彼らには試練として、エトワ(ともたされた家宝、むしろこっちがメイン)が15歳になるまでの護衛役が命ぜられることになった。  仮の主人というか、実質、案山子みたいなものとして、彼らに護衛されることになったエトワだが、一癖ある男の子たちから、素直な女の子までいろんな子がいて、困惑しつつも彼らの成長を見守ることにするのだった。

転生少女は黒猫メイスと異世界を冒険する

うみの渚
ファンタジー
ある日、目が覚めたら異世界に転生していた主人公。 裏庭で偶然出会った黒猫に魔法を教わりながら鍛錬を重ねていく。 しかし、その平穏な時間はある日を境に一転する。 これは異世界に転生した十歳の少女と黒猫メイスの冒険譚である。 よくある異世界転生ものです。 *恋愛要素はかなり薄いです。  描写は抑えていますが戦闘シーンがありますので、Rー15にしてあります。   タイトルを変更しました。 いいねとエールありがとうございます。 執筆の励みになります。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました!  2024年10月下旬にコミック第一巻刊行予定です 2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました 2024年8月中旬第三巻刊行予定です ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。 高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。 しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。 だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。 そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。 幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。 幼い二人で来たる追い出される日に備えます。 基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています 2023/08/30 題名を以下に変更しました 「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」 書籍化が決定しました 2023/09/01 アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります 2023/09/06 アルファポリス様より、9月19日に出荷されます 呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております 2024/3/21 アルファポリス様より第二巻が発売されました 2024/4/24 コミカライズスタートしました 2024/8/12 アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です

処理中です...