どうやら主人公は付喪人のようです。 ~付喪神の力で闘う異世界カフェ生活?~【完結済み】

満部凸張(まんぶ凸ぱ)(谷瓜丸

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第1章 どうやら始まりのお話のようです。

自称魔王レベルと付喪神狩り

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   ここはジャパルグ国の国市、たくさんの人の住む町だ。

都会と田舎の中間くらいの町だが、その町には時に付喪人たちに仕事を与える場として、また付喪人たちを管理する場所として人々の生活を守る「付喪連盟」がある。

そんな平和な場所が今まさに爆風により半壊してしまった。

突如起こった爆風により建物は風圧にさらされ、人々は付喪神の恐怖を改めて知ることになったのだ。

恐らく爆風を起こした原因であると思われる男が一人、地面を削り取る様にできたクレーターの中心に立っている。

紫色の髪に尖った鋭い目、黒い神父服を来た男性。

そして、彼は自らをこう名乗った。

「私の名はバイオン。魔王レベルの付喪神だ。」



   突然の出来事に町中はパニックになり避難警告が至るところで流され続けている。

自分の手から発射されたエネルギー弾で、崩れていく建物を見ながらバイオンは笑っている。

そんな時、付喪連盟から派遣された騎士レベルの付喪人たち10人ほどが現場に駆けつける。

ちなみに派遣された騎士レベルの付喪人達の実力は平均しても1人で熊を25頭倒せるレベルである。

「これ以上お前の好きにはさせない。いくぞみんな!!」

騎士レベルのうちの1人がそう宣戦布告し、バイオンの元へ向かっていく。



   そんなセリフを吐いたのに、戦いは一瞬で終わってしまった。

戦士たちはボロボロの雑巾のように地面に倒れている。

確かに相手は魔王レベルの付喪神だ。

結果は初めから結果は当然だったとは思う。

しかし、ここまであっさり結果が付くとはこの場の誰も思っていなかった。

「実につまらないですね…。」

バイオンがそう思っていた時である。

背後からの火がバイオンの体を覆い尽くす。



   そこには燃えるバイオンを見ながらニヤついている男が一人。

彼の名は白帝英彦(はくてい えいひこ)。ライターの付喪人だ。

その顔には顔の半分を覆うようにして髪が伸びており、髪は白髪。

それ以外は普通の人間に見える。

歳は15か16くらいだろうか。

そんな少年が恐ろしい魔王レベルの付喪神に攻撃を与えたのだ。

彼にとってはいつも通りの狩りの対象なのだが、彼は相手が魔王レベルであることに気づいていない。

「騎士レベルの付喪人でも勝てなかった相手だ。油断はできないな。
でも、さすがにあの攻撃には耐えてないだろう。さてさて、灰になっているかな~?」

彼は自分で言ったのに…先ほど自分に言い聞かせていたのに…油断してしまった。

だが、それは完璧なフラグ作り。

それが彼の運命を分けたのだ。



   ビュッン…。

突然、彼の腕を光線のようなものが貫く。

「エッ…!?」

そのあまりの痛さに英彦は悶えている。

そして、燃え盛る火の中からバイオンは立ち上がった。

火に体を覆われても火傷一つなく無傷の状態で…。

「全く私もなめられたものです。ですが、この私に攻撃をしてきた勇気は称えてあげましょうね~。」

英彦はさっきの光線が腕を貫いたときに理解してしまった。

こいつには勝てないと…。

「くそっ、このままでは殺されてしまう。」

英彦が少し恐怖した表情で言うと、バイオンはまるで子供のように無邪気に笑いながら言った。

「アハハハハハハ。殺す?そんなの当たり前ではないですか。
この私に楯突く者は誰であろうと許さないつもりですから。」

「くっそー…!!!」

英彦は地面に足をつけ悔し涙を流す。

そして、バイオンの中指辺りに集まるエネルギーの塊。

「それではさようなら。
もう二度と会わないことを期待していますよ。」

それは、まるで子どもを宥めるような表情であった。

しかし、次の瞬間、その表情は一転し、まるで恨みを今晴らそうとする人のような顔つきになり、

「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

指の先に貯めていたエネルギーを英彦に向かって放とうとしたのだ。



   そんな戦況の中、勇気ある命知らずな者が現れた。

遠くの方から男が一人、こちらに向かって来たのだ。

そのお陰で少し隙を見せたバイオン。

これはチャンスとばかりに一瞬で英彦は避難する。

その速さは、まるですばしっこい子鹿のよう…。

だが、そんな英彦の様子をバイオンは、まるで何事もなかったように気にしていない。

もう追ってこないという事は英彦に興味が無くなったのだろうか。

少し離れた場所に避難した英彦は安堵しながらも疑問に思う。

しかし、その男の正体は誰かという疑問だ。

王レベルの付喪人が来るにしては速すぎるし、騎士レベル以下の付喪人が来るわけもない。まして冒険者連盟など来るはずもない。

すると、近づいてきた男にバイオンは、

「私と戦いに来たのですか?
ならばやめておいた方がいいと思いますが…どうしますか?」

「いやー、オラこれから国市に行くとこだからあんたとは戦わねぇよ。」

ならばスルーという事で、バイオン彼を通してあげる事にした。

すると、さっきの男が歩いていった方角からまた男が一人歩いてくる。

今度はさすがに私と戦いに来た者だろう。

バイオンはそう確信していた。



   数分後…。

 「なんですか?   なんですか?  
みんな怖じ気づいて出てきませんか?
せっかく、遊びに来たのに…出迎えてくれたのがコレ!?」

結局、バイオンと戦おうという意思を持つ者は現れず、通行人が通りすぎるだけ。

せっかく、この町の強者と戦いをしに来たのに、これじゃあ来た意味が全くない。

もう帰って寝よう…とバイオンが思っていたその時…。

再び、彼らの目の前に一人の男が現れた。

今度は、まっすぐとバイオン達の方へと向かってくる。

「お前らか?
俺の朝の睡眠時間を台無しにしやがって…せっかくの休日が台無しだぜ。まだ布団の中でゴロゴロしてたい時間なんだよ。
あっ、お前だな。目覚ましより大きな音を出した野郎は……。ご近所迷惑を考えやがれ!!!」

「何者だ?  貴様ッ。」

その男は二人の前に立つと、自己紹介を始めた。

「俺の名は明山平死郎(あきやま へいしろう)。
お金の付喪人で、付喪カフェのバイトリーダーであり、正義と金の味方だ!!!」

やっと来てくれた正義の味方らしき者…。

英彦とバイオンは心の中で嬉しがっているようだ。





   彼こそがこの物語の主人公にして、間違って転生させられた男。

あの魂は今ここにいる明山平死郎として生きていたのだ。

あれから彼はこの世界に無事転生することが出来たらしい。

明山平死郎18歳。

俺はこいつになった。

なったというよりは憑依したの方が正しいかもしれない。

いや、やはり転生だろうか…?

…とにかく、こいつの周りの人には記憶喪失だと嘘をついて誤魔化しての生活…。

正直、こいつにはかわいそうなことをしたと思っている。

こいつの人生を後から来た俺が奪ってしまったのだから…。

しかし、あの女神が勝手にしたことだ。

文句ならあの女神に言ってもらおう…。

…という事なので、俺はこの世界を楽しむことにした。

これから始まる楽しい異世界ライフ。

でも、人と付喪神の世界は、俺が想像していた異世界とはかけ離れていた。

普通に人間界と同じような生活なのだ…。

つまり、学校も仕事もある。ちなみに通貨は日本円だった。

お偉いさんが日本人なのだろうか。

まぁ…別に異世界だからって、そこまで認識するつもりはない。

でも、現実の世界と同じような生活なら俺もまだよかった。

ここは町から出たら、付喪神に襲われるし、恐ろしい魔王軍もいる世界。

平和とは程遠い最悪の世界、それがこの異世界なのだ。



   俺はそんな事を考えていたのだが、どうやらバイオンには違うことを考えているように見えたらしい。

「まさか、戦うのが怖くなって、私から逃げる手立てを考えているのですか?
せっかく私に勇気を持って挑んできたというのに…。
ですが、私は売られた喧嘩は買う男です。あなたを逃がすことは決してないですよ。」

「はぁ?」

常に上から目線のバイオンに俺は少しイラっとしていた。

「まぁ、ここで殺されてもあなたにもいい教訓となったじゃないですか。一時のテンションに身を任せるとこうなるって事ですよ。」

まったく違うんだけどな…。こいつはただ戦いたいだけだろう。

そもそも、こんな魔王と自分を自称している奴が、こんな町中に来るはずもない。

だが、そんな奴だから…とは言っても、俺は煽られるのが好きではない。

その発言を聞いた事で少しイラッときたので、

「お前こそ、さっきから何にもしてこないじゃないか?
俺はさっさとお前を倒して、二度寝の準備といかないといけないんだよ!!
お前のために使う時間なんて本来は無いんだよ!!
雑音を取り払うためなんだ。だから、さっさと来やがれ!!」

あいつの言う通り一時のテンションに身を任せてしまった。

煽りを煽り返してしまったのだ。

「ん…?
いいでしょう。では、お望み通り殺して差し上げますよ!」

バイオンは少しイラついた声を出しながら、殺気を漂わせている。

はぁ…俺はなんてバカなことを言ってしまったんだろうか。

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