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209話 正面衝突

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 ブランクの握るその剣は魔王らしく禍々しいと表現が不似合いで、聖騎士らしい神々しいという言葉が似合う剣。先ほどまでの黒い靄の姿は一体何だったのでしょうか。

「切り裂く」

「やってみなさいよ!!!」

 血の鎌が一点に集まり、巨大な鎌になる。その血からは膨大な魔力を感じます。そしてブランクの握る剣。あれからは、見た目に反して何も感じることができない。だったらまだあの黒い靄の姿の方が膨大な魔力を感知できるほどでした。

「ブランク!!!」

「安心してろ。お前の不安はこいつが切れすぎるのが原因だ」

 切れすぎるのが原因? ブランクの言葉の意味がまるで理解できない。切れすぎていたらなんだというのでしょうか。

 余裕そうにしているブランクに向かって巨大な鎌が高速で襲い掛かる。その勢いは周囲に魔力を垂れ流しながら進む道に強烈な衝撃波を飛ばす。

 強い衝撃波の影響か、それが走る空間がぶれるように崩れる。轟音と乱れる視界の中。

 なぜかブランクの周囲は無事。そして鎌がブランクの一定距離まで近づくと、ブランクは窓淵で指をなぞって埃をふき取るように、剣を振る。

 その切先。

 空を切るとはまさにそのこと。遮断されたすべては鎌だけにとどまらず、光すら切り裂いた。それはアリゼの衝撃波による空間のズレとは比較できない切れ味。

 視界がぶれるのではない。ブランクは切った光は、目に届かない。物体を視認するには物体そのものが光るか、光に触れたことによって反射する反射光で成り立っている。

 どちらにせよ、色が目に届くのは光がるから。それを完全に断ち切り、空間に黒を作る。ブランクの太刀筋は光を奪うから、目に何も届かないんだ。

 そして鎌までスパッと切り裂かれる。断面はやはり黒。そしてあれほど感じていた鎌の魔力も感じ取れない。

 なるほど。切れすぎるとはそういうこと。ブランクの持つ剣は、魔力も断ち切ったんだ。

「まだ、まだよ。ここには大量の金属が!!!」

「やってみろ」

 アリゼが金属になった大地から頑張って武器を作ろうとするもの、取り出したい量以上に金属がへばりついてきて、武器らしい武器を造るのに手こずっていた。

「この剣は切れすぎる。だから今まで剣先を極限までつぶしていた。そのせいで周囲の空間を切り裂いて視認できない剣になっていたがな」

 それが黒い靄の状態の正体。切れ味が鈍っていたとしても、おそらくあの剣そのものについている能力によって周囲の空間に影響を与えていたのね。

「いいわ……まだ魔法は残っているのだから」

 そういったアリゼの周囲には青い炎が燃え上がり始めます。どうやら彼女は金属を操る以外にも何かができるようです。それにしても炎を直接操る魔法。

 やはり彼女には複数の魔法を組み合わせる私の創造魔法と同類の魔法がまだ存在するのね。さすがについさっき目覚めた私と違って、バリエーションも豊富ね。

「炎か。だったら俺はこっちだ」

 ブランクは剣をしまい手のひらに魔力を集中し始める。ブランクの手のひらの上には冷気が集まり始める。

「燃やし尽くす」「凍てつけ」

 互いの魔法が正面衝突する。魔力量以前に、氷が炎に勝てるのかしら。冷たさには限界がある。何か加勢しないと。

 青い炎。あれがもし完全燃焼による炎だというのなら。酸素を減らせば弱まるのではないでしょうか。金属の世界であるここにではただでさえ酸素は新たに作られない。だから私はさらに消費する。

 それにここには無数の金属がある。

 私は巨大な空間に対して魔法を行使する。

「時空魔法、経年劣化エイジング

 周囲の金属の大地に向かって魔法を行使する。それは急速に錆び始めた。

 空気中の酸素は広大な鋼鉄の大地により消費される。アリゼの炎がどんどん赤く移り変わり、ブランクの冷気がどんどん押し勝っていく。いけるわ!

「くそ! 一体何なのよ!! 私はただ! 私はただ! この国を……この国を崩して……奪い去って!!! 亡き物にして!!!! うああああああああああああ!!!!」

 アリゼの炎が土壇場でパワーアップするも、それは供給される魔力だけ。魔力はに反比例して炎は弱まる。そして冷気が完全にアリゼの手元まで来て、彼女の右腕を浸食し始めた。

「やったわ!!」

 私が喜びの表情を作った直後、アリゼは苦しそうな表情から、憎悪の色が濃い顔に移り変わる。

「終わらせられるか!!!」

 そう叫んだアリゼが腕を引きちぎる。そこまでして彼女はこの国を憎んでいるというのだろうか。それとも、もう後には引けないのだろうか。
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