ＢＡＤ ＥＮＤ ＳＴＯＲＹ ～父はメインヒーローで母は悪役令嬢。そしてヒロインは最悪の魔女！？～

153話 転移

　ジェラールの生誕祭が終わり、私達はいつも通りの日常を過ごし始めていました。

「時空魔法には時間を操るほかに空間を歪めることも可能です。そして膨大な魔力量を使用しますが、ショートワープなども可能です。実践しましょう」

　現在、魔法学園で私は時空魔法の講習を受けています。

　担当教員は我が母エリザベート。エリザベートが転移の魔法を使用すると、三メートルほど違う位置に転移します。

　なるほど、時空魔法って転移もできたのね。でも、ブランクのように王宮の部屋から王都の中央に気軽に移動なんてできないんでしょうね。

「じゃあ、クリスティーン。貴女がやりなさい」

「え！？　私ですか！？」

「魔力の流れなら私がやった通りだから、後は自力でやりなさい」

　母はなぜか私にだけ教え方がアバウトだ。他の生徒にはコツまで話すというのに、私の時は感覚指導に近い。

「時空魔法、転移ワープ」

　私がエリザベートと同じようにショートワープをしてみると、教室の外に放り出されたように窓の外に移動してしまいました。

　あと、ここは四階です。

「え？　きゃあああああああああああ！？」

「時空魔法、遅延スロー」

　私の落下速度がゆっくりになり、そのまますぐ下まで加速アクセルで移動したエリザベートにキャッチされます。

「誰が窓の外まで転移しろと」

「加減がわからなくて」

「無事でよかったわ。戻りましょうか」

「はい」

　その日の授業はショートワープを何度か反復して練習し続け、疲れが溜まった私は今にも眠りそうな気分でウィルフリードの狼車に乗り込むのでした。

「ああ、姫様」

「ジャンヌさん？　皆様？」

　ジャンヌさんの声が聞こえ振り返る。もう眠いなぁくらいしか考えられない私。今この瞬間も意識を手放してしまえばどれほど楽だろう。

　そう考えました。

　その瞬間、全身に感じた悍ましい魔力。周囲の皆様も慌ただしい声を上げ、スザンヌは私を庇う様に前に出る。

　先ほどまで眠かったのが嘘のようでした。ピリピリとした空気に即座に反応したのはエリザベート。

　さきほどまで近くにいなかったはずなのに一気に私の真横までワープしてきます。

「…………お母様？」

「逃げるわよクリスティーンちゃん」

「…………？　…………！？」

　急に手を引かれ私が何か言う前に連れ出そうとするエリザベート。

　私はその手を振り払った。

「クリスティーンちゃん？」

「誰ですか貴女。お母様ではありませんね？」

「あーら？　もうバレちゃった？　じゃあいっか。ローマーン？　聞こえているんでしょう？　アレ、使って頂戴」

　ロマン！？　赤銅のロマンの事？　どこかにいるの？　いえ、見当たりません。

　エリザベートの姿に化けた何者か。なんとなくですが、私は彼女とは初対面ではないはず。

　具体的に言えば…………

「ラクダリレーぶりかしら？」

「ピンポーン！　そしてこの停留所にいる人間は全員持っていくわ」

　エリザベートの姿をした女がそういうと、膨大な魔力が動き始める。

　停留所にはいつもの皆様とウィルフリード。それからこの女。

　そして最初に感じた膨大な魔力に私たちの体は持っていかれてしまった。

　これは先ほどのショートワープに似ている。これをあのロマンがやっているというのなら、命を代償にするほどの魔法と言って良い。

「これほどまでのことをして！　あなた達の目的は何！？」

「んー？　ふふ、ロマンは戦争だったかしら？　あれは奪われた人生の人間だからねぇ。私はぁ秘密」

　そして膨大な魔力の渦に完全に飲み込まれ、次に目覚めたのは薄暗い森の中でした。

　場所はわかりませんが、周囲には誰もいません。

　土は湿っていて、木はこげ茶色。葉は枯れ落ちて、空は赤黒い。

「…………魔界？」

　乙女ゲーム終盤になると、どのルートでも必ず出現する魔界。

　正確には、学園が魔界化する時もありましたが、これは間違いない。転移だ。

「確か魔界には魔王がいて魔王は…………魔王はどんな顔をしていましたっけ？　確かアルビノな感じだったような」

　うまく思い出せないわ。

　曖昧な記憶と言えば、前世の記憶って乙女ゲームのことだけは詳細に思い出せるのに、それ以外は一般常識や日本での一般教養以外思い出せないよのね。

　まるで都合が悪いことだけ思い出せないようだわ。

　ん？　都合が悪いって誰にとって？　私？　それとも…………

「まあいいわ。今はそんなことより誰かと合流しましょう」

　おそらく大規模な転移魔術。あの女の言葉から、私以外の皆様も転移していることは自明の理。

「だったらまずは誰かと合流しないと」

　それにここは魔獣もいるわ。本物の魔獣との闘い。皆様、無事でいてくれればいいのですけど。

　私はとにかく周囲に誰かがいた痕跡を探しながら飲み水の確保できる場所を探しました。