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146話 国王生誕祭の朝

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 今日は本来は学園に通う日ですが、本日は王国では祝日。

 そう、国王である父ジェラールの生誕祭なのです。

 私達は特別準備することはありませんが、国内では右往左往している方々ばかり。

 献上品やなんやで国中の貴族たちが大変そうにしている中、ジェラールときたら朝からいつも通り。

「お父様とって!」

 弟のジルが短い手で良い焼き色のパンが盛られた籠に手を伸ばしてバタバタさせます。

「ジル、すこしは自分で」

「いいんだエリザベート」

 完全にご機嫌な朝食風景である。私は木苺のジャムを塗ったパンを一口サイズに切って口に運ぶ。

 今日の予定は朝はゆっくりできるものの、昼からは全然違います。

 まずは他国からの来賓と侯爵家以上の方で当主と夫人、それから結婚適齢期の子息子女だけの昼食会。

 ちなみにブラン王国の結婚適齢期は男性なら十八以上ですが、女性は十四歳以上。

 つまり、今年から私も含まれる。学園に通ったまま結婚している生徒もいるらしいので問題はありません。

 そうだとしても、いつアリゼが国を滅ぼしに帰ってくるかわからない今はそんなことを考える時期じゃありません。

 結婚かぁ…………。そういえばこないだ史上最低のプロポーズを受けましたっけ。

 あれは冗談としても、一国の姫である以上、いずれはまじめに考えないといけませんよね。

 無難なとこは政略結婚で国内の公爵家。アレクシスやカトリーヌさんの実家でも後継ぎはいるでしょうし、その辺よね。

 あるいは国外とか。オリバー以外がいいわ。

 もしくは何らかの功績をあげた若者。ただしイケメンに限る。

 あー、私って恋することを諦めているのかな。

 はたして前世の影響か。それとも姫という肩書が影響か。

 おっと今日の予定予定。

 昼から夕方にかけてはパレードね。今年は魔狼が大通りを走るのではと噂されているからノリで採用したわ。何より楽しそう。

 そして夜は王都と王宮内では貴族と平民に別れてそれぞれパーティ。

 露店なども大盛り上がりですし、今年もこっそり抜け出していこうかしら。

 って思っていたのですけど、十四の私はやはり婚約者探しをしなければいけないそうです。

 ダーツで決めていい? くじでもいいわ。ただしイケメンに限る。

「クリスティーンももう十四か。もう結婚相手を探し始める時期なんだな」

「そうよ、いい加減子離れしなさい」

「姫ならもっと幼いうちから婚約者を作るというのに、それを渋ったお前が言うのか?」

「今、その話はいいんでしょう!」

 そういえば私もジルも未だに婚約者の話すら出なかったですよね。

「私はどんな相手でも従いますよ?」

 そう、私は従う。それが、両親にできる恩返しなのだろう。

 微笑みかけた私にジェラールとエリザベートが一度目を合わせてから、私の方に視線を向けます。

「お前にはいつか話そうと思っていたが、俺とエリザベートは政略結婚なんだ」

 ええ、何度も婚約破棄させたので存じ上げてます。まさか来世の両親になるとは、あの頃の私は思うまい。

「私達はその…………愛し合えていなかったのよ」

 それも知っています。私がくっつけたと言ってもいいほどです。

「エリザベートは昔少し傲慢なところがあったが、芯のある令嬢だった。王妃として申し分ない器でもあったが、見本通りの貴族だったんだ」

「そうね、私はそれを正しいと信じてひたすら手本通りの生き方をしたわ。結果的にジェラールが求めている物とは、正反対に全力疾走をしていたの」

 真面目な話なのに、エリザベートが全力疾走している構図が頭から離れない呪いにかかった。

「俺たちはいつからかお前に手を惹かれ愛し合おう事ができたが、もしかしたら今でも形だけの夫婦だったのかもしれない」

「ええ、だから私たちはね。貴女が望まない結婚を望んでいないの」

「良いのですか? 自由に結婚しても? 恋をしても」

 ジェラールとエリザベートは互いにもう一度顔を見合わせると、二人とも見たこともない笑顔を一瞬だけ浮かべる。

「お前が笑う未来を俺に見せてくれるなら、それで良い」

「変な男はダメよ。ちゃんと私の元に連れてきなさい?」

 今まで心のどこかでダメなのではと思っていた何かがぶち壊された。

 恋愛をしてもそれは一時の夢になるのではないかと考えたこともある。

 一国の姫の役目と考えるべきだとも思った。それでも、うちの両親は私にその役目を負わせようとしなかった。

「絶対に素敵な人を連れてきますね?」

 私がそういうと、エリザベートはニッコリと笑うが、ジェラールは少しだけ複雑そうな顔をしてしまいました。
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