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137話 騎士を目指した少年

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 決勝トーナメント第一試合が終わると、周囲にはジョアサンとアレクシス。リビオにカトリーヌさん。それからスザンヌまでやってきました。

 ミゲルとビルジニは次の試合の準備で来ていませんね。

「状態魔法って何ですか?」

 最初に疑問をぶつけてきたのはアレクシス。

 他のみんなも同様の疑問を持っていたみたいですね。

 私の言葉を待っています。スザンヌにすら黙っていた秘密。

「私は一度も波動魔法と時空魔法”しか”使えないなんて言っていないわ。使える魔法は波動魔法と時空魔法ですとは言いましたけどね」

 本当は、学園の催しの大会で使用することすら躊躇いました。

 でも、負けられない戦いで使わない方が馬鹿。

 本当にマズイ時でしたら、今までもタイミングを見て使うつもりでした。

 でも、今までは陰で護っていてくれる人がいた。手を回してくれる人がいた。

 私は、今どこにいるかもわからない、馬鹿な魔導士の姿を思い浮かべます。

「姫様…………」

 後ろから私を呼ぶのは、心優しい少女の声でした。

「ジャンヌさん」

「私がシャドウを使うと見越してあの魔法を?」

「違うわ。馬上槍大会で最も危険なのは視界を奪われること。幻惑魔法をはじめ、相手の視界を奪う手段は無数だわ。だから槍を投げれば必ず必中するあの魔法を登録したのよ」

 波動魔法で視界を奪おうとしたのは、後にも先にも貴女だけでしょうけどね。

「そう…………ですか。視界を奪う技は、対策して当たり前なんですね」

 別にそういう訳ではない。

 私がこの状態魔法を知っていたのは、私の魔法の師がたまたま状態魔法に詳しい男だったから。

 思えば私の魔法が大地に波動を送り込むものが多いのも、初めてレイモン先生に教わった派生魔法だからかもしれない。

 さすがに三種類使えるだけでも稀代の魔術師と言われる世界。私は今日のこの瞬間、歴史に名を残してしまいましたね。

 残りの守護魔法とかの使用は、しばらく温存かしら。

「決勝トーナメント第二試合。ミゲル・エル・ラピーズ対ビルジニ・ド・タグマウイ。試合開始!!!!」

 観戦席に移動した私たちは、第二試合であるミゲルとビルジニの試合を眺めていました。

 ミゲルは守護魔法の使い手。ビルジニは付与魔法の使い手。

 馬上槍大会において、守護魔法使いは楯で防御をしたり、結界の足場を作って高所から頭部を狙ったりとした戦いが主流です。

 それに対して付与魔法使いは、馬に跳躍力を付与して高所から突いたり、槍を鞭にしてしならせて攻撃をします。

 どちらが厄介かしら。やっぱりビルジニ?

 守護魔法って結局、壁を作ったり足場を作ったりでわかりやすいのよね。

 そう思いながら始まる一本目。ビルジニが付与魔法で軟質化した槍を鞭のように使い、ミゲルに襲い掛かります。

 ミゲルは馬上にも関わらず上体を大幅に傾け、ビルジニのしなる槍をかわし、即座に耐性を立て直して突き返しました。

「ミゲル! 三点!」

 ミゲルの槍は見事ビルジニの胴体にヒットし、ミゲルが先制点を取得します。

 てゆうか、何あの動き。ほぼ落ちるくらいまで体を傾けて回避? 危険にもほどがある。

 そして続けて始まる二本目。既に魔法を使用済みのビルジニに対し、ミゲルは未使用。

「錬金付与魔法、鋼鉄化メタル

 ビルジニが連続で魔法を使用。ビルジニが魔法を使ったのはミゲルの軽い金属製の鎧。

 それが一気に重い金属製の鎧に変化させられてしまいました。一気に重さが加わり、乗っていた馬の速度も遅くなります。

 しかし、肝心のミゲルの動きはさきほどとほとんど変わらず、重い鎧のままスムーズに体を動かし、ビルジニの頭部に槍をあてました。

「ミゲル! 五点!!」

 上空に幻惑魔法で表示されたすこぼーどには、八対零の表記。

 二本目にしてミゲルとビルジニには八点差。

 更に言えれば、ミゲルはまだ一度も魔法を行使していません。

 続く三本目。錬金付与魔法は付与魔法と違い、いつまでも効力が続きます。

 解除するにも魔法の行使が必要の為、ミゲルは重い鎧を着たまま走り始めました。

 しかし、それをハンデとすることなく、ミゲルは今まで通りの動きを維持し、そのままビルジニの胴に突きをいれてしまいました。

「ミゲル! 三点! 十一対零! よって決勝トーナメント第二試合、ミゲル・エル・ラピーズ対ビルジニ・ド・タグマウイ! 勝者、ミゲル!!」

 三試合目にして十点以上の点差。この時点でビルジニの負けが確定したことを意味します。

 結局、ミゲルは一度も魔法を行使することなく決勝進出。

「スザンヌ!」

「ええ、聞かれませんでしたので…………お察しの通り、ミゲル様はここに来るまでただの一度も魔法を使っていません」

 …………情報ゼロってことじゃない。
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