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124話 私の知っている貴方は聖歌が嫌いでひねくれていて

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 王宮から学園に向かう準備をし始めます。馬車ではなく魔狼であるウィルフリードを繋げた狼車ろうしゃで行くことになり、以前と違って揺れが軽減されるように改良されているみたいです。

 狼車の中は広く、私とスザンヌ、ビルジニのほかにアンヌ先生と騎士団から二名が乗り込んでいます。ですが、全然窮屈ではありません。

 ビルジニは、過剰なのではと思いながら、付き添いで連れてこられた騎士たちを眺めています。

「久々の外出ですが、これではゆっくりしたくてもできなさそうですね」

「すみません姫様」「国王陛下からのご命令ですので」

 騎士二人は申し訳なさそうに呟きますが、アンヌ先生はにっこりとした表情で私を見つめています。

「クリスティーンさんはぁ~、危険な場所にも飛び込んでしまうお転婆さんですのでぇ~むしろ足りないくらいですよぉ~」

 それを言われてしまえば、反論のしようがない。元々学園内でも平民の暴動事件に首を突っ込んでいました。

 それから、魔法遠征での一度自分自身が囚われた場所に、たったの三人で乗り込んだことだってはっきり言って異常です。

 アンヌ先生からの評価でいえば、これくらいの監視は普通か、むしろ少ないになってしまうのでしょうね。

 狼車が停まり、どうやら学園についたみたいですね。私はビルジニとスザンヌと一緒に学園内に向かい、アンヌ先生含めた護衛の騎士様達は少し離れた位置からぞろぞろとついてきました。

 勇者パーティかしら。姫、錬金術師、メイド、凄腕魔術師の教師、騎士、騎士。…………これ姫が最初に役立たずとして追放されない?

 平民生徒が生活する学生寮に到着しますと、何名かの生徒が私達に気付きます。よく見ればD班にいた生徒も何人かいますね。

 洞穴脱出時に一緒に波動ウェーブを唱えた双子の兄妹もいるわ。こちらをチラチラみていますし、彼らにジャンヌさんの場所を聞いてみましょうか。

「えっと…………シュバルツァー兄妹!」

「シェヴァルメです姫殿下」「兄のジャックと私がロキサーヌと申します」

「あ、ごめんね。その…………」

 私が名前を間違えてあたふたしていると、クラスメイトの二人はやはり不思議そうに私を見つめていた。

「姫殿下はその……平民にはつらく当たるところを時々お見かけしますが、それは本当の姿なのですか?」

「…………色々あるのよ。クラスではそのひどい姫だと思っていてください」

 私がそう答えると、二人は不思議そうにこちらをみつめますが、理解はしてくれなくても、了解はしてくれたみたいです。

「ジャンヌさんはいらっしゃいますでしょうか?」

「彼女でしたら今日も歌っていますよ」

 ロキサーヌさんがそう答える。

「歌?」

 学生寮から少し離れた洗濯をするために用意された水路の淵で、大量のシーツを洗いながら、彼女は綺麗で透き通るような歌を風に乗せていた。

 これは聖歌ね。そういえばジャンヌさんも聖歌隊のメンバーでしたっけ。

「ジャンヌ」

 私が呼びかけると、卵色の髪をした女の子が、グラスグリーンの瞳をこちらに向けました。

「…………姫様? あ、えええと!? 御機嫌よう!」

「いいわよそれは。それより元気そうねジャンヌさん。さすがに貴女が王宮に遊びにい来るのは難しいと思ったから、私から来てしまったわ」

「いえ! そんな!!! 恐れ多いです!!!」

 ジャンヌさんはもう目をぐるぐるさせながら、必死に喋っていることが伝わります。

 彼女は本気でそう言っているのが、表情や身振り手振りで通じる。だからこそ彼女と会話していることに安心感を感じた。

 しばらくしないうちにアンヌ先生と騎士の二人。それからスザンヌが突然、横になって倒れ込む。

「え!?」

「驚きすぎだ」

 私の前には、黒い靄が人型に形成されていく。ローブで顔を隠し、髪の色も瞳の色もわからない謎の魔術師。

「本当にここにいたのねブランク」

「目的があればどこにでもいく。今はここですることがあるだけだ」

「……それを教えて貰えるのかしら?」

 私がそう問いかけると、ブランクは顎に手を当てて、考えこむ。

 考える必要があるの? 私達、協力者なんでしょ? なんでそこ秘密にしちゃうのよ。教えなさいよ。

「協力の件だが…………解消してもいいか? お前も得体のしれない魔術師が傍をウロウロしているのなんて嫌だろ?」

「え? でも、それじゃあ…………貴方はワンダーオーブをどうやって手に入れるの?」

「…………もうお前は必要ないってことだ」

 そう言われ、私は次の光景を理解するのに、数十秒いえ、体感でいえばもっともっと長く感じるほどでした。
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