上 下
128 / 228

124話 私の知っている貴方は聖歌が嫌いでひねくれていて

しおりを挟む
 王宮から学園に向かう準備をし始めます。馬車ではなく魔狼であるウィルフリードを繋げた狼車ろうしゃで行くことになり、以前と違って揺れが軽減されるように改良されているみたいです。

 狼車の中は広く、私とスザンヌ、ビルジニのほかにアンヌ先生と騎士団から二名が乗り込んでいます。ですが、全然窮屈ではありません。

 ビルジニは、過剰なのではと思いながら、付き添いで連れてこられた騎士たちを眺めています。

「久々の外出ですが、これではゆっくりしたくてもできなさそうですね」

「すみません姫様」「国王陛下からのご命令ですので」

 騎士二人は申し訳なさそうに呟きますが、アンヌ先生はにっこりとした表情で私を見つめています。

「クリスティーンさんはぁ~、危険な場所にも飛び込んでしまうお転婆さんですのでぇ~むしろ足りないくらいですよぉ~」

 それを言われてしまえば、反論のしようがない。元々学園内でも平民の暴動事件に首を突っ込んでいました。

 それから、魔法遠征での一度自分自身が囚われた場所に、たったの三人で乗り込んだことだってはっきり言って異常です。

 アンヌ先生からの評価でいえば、これくらいの監視は普通か、むしろ少ないになってしまうのでしょうね。

 狼車が停まり、どうやら学園についたみたいですね。私はビルジニとスザンヌと一緒に学園内に向かい、アンヌ先生含めた護衛の騎士様達は少し離れた位置からぞろぞろとついてきました。

 勇者パーティかしら。姫、錬金術師、メイド、凄腕魔術師の教師、騎士、騎士。…………これ姫が最初に役立たずとして追放されない?

 平民生徒が生活する学生寮に到着しますと、何名かの生徒が私達に気付きます。よく見ればD班にいた生徒も何人かいますね。

 洞穴脱出時に一緒に波動ウェーブを唱えた双子の兄妹もいるわ。こちらをチラチラみていますし、彼らにジャンヌさんの場所を聞いてみましょうか。

「えっと…………シュバルツァー兄妹!」

「シェヴァルメです姫殿下」「兄のジャックと私がロキサーヌと申します」

「あ、ごめんね。その…………」

 私が名前を間違えてあたふたしていると、クラスメイトの二人はやはり不思議そうに私を見つめていた。

「姫殿下はその……平民にはつらく当たるところを時々お見かけしますが、それは本当の姿なのですか?」

「…………色々あるのよ。クラスではそのひどい姫だと思っていてください」

 私がそう答えると、二人は不思議そうにこちらをみつめますが、理解はしてくれなくても、了解はしてくれたみたいです。

「ジャンヌさんはいらっしゃいますでしょうか?」

「彼女でしたら今日も歌っていますよ」

 ロキサーヌさんがそう答える。

「歌?」

 学生寮から少し離れた洗濯をするために用意された水路の淵で、大量のシーツを洗いながら、彼女は綺麗で透き通るような歌を風に乗せていた。

 これは聖歌ね。そういえばジャンヌさんも聖歌隊のメンバーでしたっけ。

「ジャンヌ」

 私が呼びかけると、卵色の髪をした女の子が、グラスグリーンの瞳をこちらに向けました。

「…………姫様? あ、えええと!? 御機嫌よう!」

「いいわよそれは。それより元気そうねジャンヌさん。さすがに貴女が王宮に遊びにい来るのは難しいと思ったから、私から来てしまったわ」

「いえ! そんな!!! 恐れ多いです!!!」

 ジャンヌさんはもう目をぐるぐるさせながら、必死に喋っていることが伝わります。

 彼女は本気でそう言っているのが、表情や身振り手振りで通じる。だからこそ彼女と会話していることに安心感を感じた。

 しばらくしないうちにアンヌ先生と騎士の二人。それからスザンヌが突然、横になって倒れ込む。

「え!?」

「驚きすぎだ」

 私の前には、黒い靄が人型に形成されていく。ローブで顔を隠し、髪の色も瞳の色もわからない謎の魔術師。

「本当にここにいたのねブランク」

「目的があればどこにでもいく。今はここですることがあるだけだ」

「……それを教えて貰えるのかしら?」

 私がそう問いかけると、ブランクは顎に手を当てて、考えこむ。

 考える必要があるの? 私達、協力者なんでしょ? なんでそこ秘密にしちゃうのよ。教えなさいよ。

「協力の件だが…………解消してもいいか? お前も得体のしれない魔術師が傍をウロウロしているのなんて嫌だろ?」

「え? でも、それじゃあ…………貴方はワンダーオーブをどうやって手に入れるの?」

「…………もうお前は必要ないってことだ」

 そう言われ、私は次の光景を理解するのに、数十秒いえ、体感でいえばもっともっと長く感じるほどでした。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

処理中です...