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100話 【緑】のワンダーオーブ

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 私とリビオはあれから何日も通って本の解読を続けました。

 読み進めることが難しいところもいくつかあるが、それは何か特別な意味のある単語であることまでは理解している。

 今私達が読み進めているところは、七つの宝珠を作成する際に現れた副産物であるこの世界の七つの魔法について。七つの魔法はそれぞれ七人の英雄の個性が入り混じった結果、宝珠になった個性と魔法になった個性が存在し、中には複数の個性が一つの魔法として出来上がっているものもあるらしい。

 難しいわね。つまり私達が今使っている魔法は、七人の英雄の力が足して七つで割った結果というべきなのでしょうか。

 また、宝珠には所持者の身体に特別な力を与える。【赤】は■■、【橙】は速力、【黄】は防御力、【緑】は魔力、【青】は破壊力、【藍】は治癒力、【紫】は幸運を人類の限界を超えたところまで高める。

 ふーん、過去に魔法適正の円盤をレイモン先生から見せて頂きましたが、守護魔法の色は橙に対して、防御は【黄】なのね。やはり魔法誕生そのものは、本当に副産物で、神と一対一で対応するのはワンダーオーブそのものなのね。でも、【藍】は治癒魔法と治癒力で被っているのよね。

 乙女ゲームなのに装備アイテムみたいだわ。まあ、魔道具ってそういうものよね。そして上昇する力もパラメータっぽい。ステータスオープン。…………何も出ないわよね。声には出さないわよ。隣にリビオがいるうちはね。

 てゆうか、肝心のヒロインのアリゼが手に入れた【赤】の力がわからないじゃない。

 私は乙女ゲームの知識でワンダーオーブの存在を知っていることである程度は理解できていますが、一緒に解読しているリビオはなんのこっちゃというリアクションでした。

「クリスティーン姫はこれがなにかわかるのですか? さきほどから何か納得していますよね?」

「…………そうね、まあその…………いわゆる特別な人間だけが知っている事実と因果関係があるのよ」

「特別? 王家のか? なるほど。そういうことでしたか、失礼しました」

 どうやら王家しか知ってはいけない事柄と思われたのか、リビオはそれ以上追及してくることはありませんでした。勘違いですが、今はそう思って頂きましょう。

 彼もワンダーオーブを手に入れることを考えれば、そのうち神と出会って登場人物との関係性に気付くわよね。

 しかし、ここの神様はどこまで読み進めれば私とリビオを認めてくださるのかしら。乙女ゲームでは禁書を解読した。でテロップ終わったじゃない。誰よ省略したの。まあ、乙女ゲームユーザーに対して、こんな地味なシーン用意できないわよね。

 どちらかと言えば、解読に必死なレイモンの横顔の描写や、疲れたレイモンに差し入れをするアリゼの描写ばかりだったわ。

 でもここにいるのはレイモンでもアリゼでもない。私とリビオが乙女ゲームのシナリオを、選択肢が出ることもなくなぞっているだけ。しかも私が何も知らないリビオを誘導しながら。

 二人で何度も読み進め、読めない単語をいくつも集めた。まずは導きの神『■■■■■』。これは禁書の中の太陽の名前でもある。それから星のルールを書き換えた■■魔法。以降の解読で現在存在するすべての魔法が解読できたことから、この■■魔法は、失われた魔法と考えるべきでしょう。

 もっとも、存在しない魔法を使う男なら心当たりがありますが。彼なら星のルールを書き換える魔法くらい知っていそうですね。

 それから【赤】のワンダーオーブが所持者に与える力。ヒロインと戦う未来を想定している以上、これは知っておきたいわね。

 しかし、解読不可な場所はそう簡単に読み取れないままでした。更に、私は別の文字を見つけ驚愕する。

 その宝珠。巨大すぎる故、大地に埋もれたまま封印されず、導きの神の力宿る。【■】の宝珠は、所有者を定めず世界を安定させる。【■】の宝珠は、他の宝珠と異なり、浄化魔法は使えない。

 【■】の宝珠は■■の真理を暴く。輪廻の女神『■■■』が、世界の危機が訪れる時、真に■する者にこそ相応しいとし、その【■】の宝珠は埋もれたまま放置されることとなった。

「クリスティーン姫、さらっと流されましたが、浄化魔法とは何ですか? 何故そこで一度区切らないのですか?」

 あー、そういえば現時点で浄化魔法って私とジョアサンしか知らないのよね。例え魔の前で使用しても、ガエルやレイモン先生も浄化魔法のことは忘れていたし、おそらくワンダーオーブに選ばれていない人間は知る機会はないのでしょう。

「それも特別な人間だけが許された知識よ!」

「ええ…………まあ、もしその知識が必要になる時は教えてください。世界の危機とか何やら物騒な言葉が出てきていますから」

 いえ、私はむしろ世界の危機よりも…………輪廻の女神の方が気になる。だってこの女神って私の転生の真実を知っているわよね?

 いえ、無数の転生の一つとして忘れられている可能性もありますけど。少なくとも乙女ゲームの世界なんてそんな都合の良いものが存在するとは思えない。

 私はとある仮説を立てている。それでもその仮説は何一つ立証できていない。だからこそ、この転生の女神と会えるのであれば、私は彼女に会わなければならない。

『パンパカパーン!』

「へ?」「は?」

 私とリビオの後ろには、金髪に黄金の瞳の女性。長い髪はツインテールにまとめられている。服装はヨランド同様ギリシャ神話の女神みたいな服だ。

 私達の真後ろにある本棚の奥が輝く。どうやら本棚に塞がれた何かに彼女は宿っていたのでしょう。

『私の名はエレーヌ! いわゆる女神です!』

「エレーヌ!? それってさっきの七人の英雄の名前か?」

 リビオは英雄の名前を丸暗記していたようで、一瞬で気付き、エレーヌも『あー、英雄ですか。まあなんとなくそれは私のような気がします。生前も呼ばれていましたし』と答えた。

「教えてくれ! この本にい記されていたことは事実なのか?」

 リビオが女神エレーヌに質問すると、エレーヌは少しだけ考えこみ、そしてこう告げた。

『筆者の脚色がなければそうだと思うわ。話を聞く限り、私の生きた世界と整合性はありますね』

 エレーヌの言葉を聞いてリビオはその本を眺めている。無理もないか。私のように日本人の記憶が根幹にある人間は宗教に対して信用などほとんどない。

 しかし、この世界の真理として教えられ続けた人間は別でしょう。今までそうだと信じていた概念のほとんどがひっくり返る。

『どちらにせよあなた方のその知識欲に私は敬意を表し、私の魂を授けます。所持するのは魔力的にお嬢さんね。受け取って』

 そして【緑】のワンダーオーブが私の手元にゆっくりと飛んできた。私がそれを受け取ると、女神エレーヌは満足そうに微笑む。

『あら? 貴女既にヨランドとあっているのね。じゃあ宝珠の説明は不要ね。それは怠惰を浄化するわ。もし一人で使うなら、貴女はきっと何もできなくなるわ』

 そう言ってエレーヌもヨランドの時同様に消え去ってしまう。さてさて、二つ目のワンダーオーブを手に入れたは良いですが、リビオは状況を理解できていないですし、私は私でブランクに【緑】のワンダーオーブを渡さなければいけないわね。

 それに、ブランクには聞きたいことが増えましたしね。
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