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93話 北西の森へ

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 学園では、最後の授業の予鈴がなります。アンヌ先生が教科書をぱたりと閉じ、生徒たちも授業を終えた解放感から自由にうろつき回っています。

 さてと、私はリビオのところにいかないといけなかったわね。そう思って席を立とうとすると、私のすぐ横には座っていた私を見降ろす影。

 銀髪に深紅の瞳の女子生徒。カトリーヌさんだ。

「何か?」

 私は座ったまま、視線をカトリーヌさんの方に向ける。カトリーヌさんは私に何かを言いたそうにしていることだけはわかる。しかし、隣にたったまま黙られると無視することもできない。

「おーい?」

「ねえ、昨日の件ですけど友達って何をするの?」

 …………ああ、そういう。

 言われてみれば今日はなんとなく自由行動の時間を含めて彼女が視界の端にいた気がする。もっとフランクに話しかければいいよというべきだろう。

 そもそも、提案した私から積極的に話しかけるべきだったわ。カトリーヌさん完全に困っていたじゃない。でもごめんなさい。

「ごめんなさいねカトリーヌさん。明日一緒に帰りましょう?」

「え? ええ」

「今日は…………」

「? 今日は何よ」

 カトリーヌさんってリビオのことが好きなのよね。今日の予定は別の予定だったってことにしましょう。そもそもレポート勝負の発端もそれのせいですし。

「今日は右目に封印された邪龍が疼くの」

「え? 貴女の右目に邪龍が?」

 うっそ。この子信じちゃった。そうですよね。この世界って邪龍はともかく呪いや龍。封印とか普通にありますからね。神話までさかのぼるともっとすごいことになっていますけど。

 魔法の世界であることや、ワンダーオーブのような魔道具。それから祀られる七人の神のうち一人ヨランドは、この目で見てしまいました。今更、右目に邪龍が封印されていても、そんなことがあるのかで済む世界なのね。

 明日心配されたら解呪されたことにしとこう。

 カトリーヌさんはそのまま停留所の方に向かい、馬車に乗り込むのだろう。私は途中まで一緒に歩いたが、一階のエントランスまで歩くと彼女を見送って北西の森の方に向かいました。

 あえてリビオと一緒にいかないのは、もし二人でいれば途中でミゲルやアレクシス、ビルジニに見つかれば十中八九声をかけられ、ついてこようとしただろうと思ったからだ。一人でいる時なら、用事があるで躱しやすい。

 そういう風にしろってスザンヌに入れ知恵を貰ったのだ。

 そして歩いていくと、森の近くにあるベンチに座る黒髪の少年。一冊の本を真剣な眼差しで見つめ、草木が風で揺れる音と、ページを捲る音だけが私の耳に届いた。

 なるほど、仮にも公爵令嬢に惚れられるだけの見た目をしているわね。黒髪も黒目も日本で育った前世で言えば普通の特徴ですが、ここでは違う。吸い込まれるような色と言われれば、視線がふっと移動してしまう意味ではそうなのかもしれない。

「リビオ?」

「! クリスティーン姫! すみません、すぐに気付けなくて」

「気にしないで。それより森に行きましょう?」

 リビオは慌てて読んでいた本を閉じて鞄にしまい込みます。リビオは付き人に鞄を渡し、私達は並んで森に足を踏み入れました。

「そういえば何故ここに?」

「前に旧校舎らしき建物を見つけたのよ。せっかくだから誰かと探検しようかなって思ってね」

「それで俺を」

 リビオは少しだけ嬉しそうにしています。リビオってば、廃墟好きなのかしら?

 私はリビオの新しい一面を知り、ちょっと意外だなと思いながら、旧校舎のある方に二人で歩いていきました。
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