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終章 有史以前から人々が紡いできたこと

1話 ポンコツを脱却すること

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 真実を知った日から数日。残り百日でグレイ様の生誕祭をお迎えします。その前に告白……できるかしら?

「エレナ?」

 朝、エレナに起こされる前に目が覚めたのは久しぶりかもしれません。同衾しているエミリアさんは、既に目が覚めていたようで起き上がった私をもう一度ベッドに沈めます。

 ここはジバジデオ王国の王宮。女王アンジェリカから、客室をお借りしましたわ。

「エミリアさん、おはようございます」

「おはようございますお姉様」

 挨拶をしますと、やっと拘束が解かれ、起き上がった私にそのまましがみ付いたままぴったりとくっついています。

「今日エレナはいらっしゃいましたでしょうか?」

「エレナさんですか? いえ、まだお見かけしていませんが」

「そう」

 しばらくしてエレナが入室。私とエミリアさんは着替え他の皆様の様子を見て周りに行きましょう。

 アンジェリカとの闘い。特にジェスカは重傷を負ってしまい、一度はアンジェリカの部屋まで一緒にいったものの、その夜眠りについてから寝たきり。昨日やっと目覚めました。

「今日のお昼。ジバジデオ王国を出発し、デークルーガ帝国に向かいましょう」

「ついに潜入されるのですねお嬢様」

 隣にいたエレナは少しだけ寂しそうな表情を作っています。どうされたのでしょうか。

「エレナ。付いて来てくださるのですよね?」

「え? あ、はい。もちろんですお嬢様」

 歯切れの悪い返事。あなたはいつも完璧ですが、私に対して後ろめたいと感じればすぐそうやって表に出てしまいますね。

「好きになさいエレナ。私にはあなたが必要。でも、あなたの人生に私はどうなのかしらね」

 そういって、ジェスカの様子を見に私とエレナと鎧《エミリア》の二人と一領で入室しました。

「おー、姫さんにメイドちゃん。それから変態の……お見舞いか? 嬉しいねぇ」

「お嬢様……」

 ジェスカの部屋には、窓の傍に立つヨハンネスもいらっしゃいました。珍しい組み合わせですね。

 ルバスラーク奪還前までは喧嘩すらしていた二人。いつの間にここまで仲良くなったのかしら。

「ジェスカ。怪我の方はもういいのかしら」

「あー、それがなぁ姫さん。あと数日ばかり休ませてもらえねえかな? さすがに完治は無理っぽくてなぁ」

「そう……」

 ジェスカがここまで怪我を負ったのはまぎれもなく、私についてこさせてしまったから。だから彼がここで離脱してもしょうがない。

 ここにおいていくべき。アンジェリカにお願いして怪我のひどい人たちの面倒を見て頂きましょう。それくらいいいわよね。

 ジェスカ以外にも怪我をされた騎士たちはここでリタイア。すぐに回復されたお義姉様とお兄様はデークルーガ帝国までご一緒してくださるそうです。

「ではあなたはもうしばらくここにいて元気になったら我が屋敷に戻るか、一度パウルスの街に戻って様子でも見てきたらどう?」

「あー、わりぃ。そうさせてもらうわ」

 出発の準備の為、私達はジェスカの部屋をあとにしようとした時、ヨハンネスがジェスカに何かを伝え私達の後ろについてきましたわ。

「良かったのかしら?」

「はい、彼に伝えておくべきことは終わりましたので」

「そう」

 お次は負傷した騎士たちの連れられたお部屋ね。

「いらっしゃるかしら?」

「ルクレシア様、何用で?」

 室内には、バルトローメスとその他大勢の騎士。女性のマリアは別室のようですね。当たり前ね。あれと同室に入れる男性はいないわ。

「オーロフは別室なのですね」

「え? ああ、オーロフ様は事情がありまして」

「……そうだったのね」

 オーロフの事情。私の推測が正しければきっとそう。最後のピース。

「オーロフはどちらにいらっしゃるのかしら?」

「ええ、お隣の部屋にいらっしゃいます」

 私はついてこようとしたエレナとヨハンネスの二人をひとまず待機してもらうことにし、エミリアさんは騎士達に捕縛して頂きました。

 オーロフのいるであろう部屋のドアをノックしますが、何の返事もありません。

 まさか。

 私は失礼を承知で扉を開きますと、窓の空いたその部屋には誰もいらっしゃいませんでした。

「ついに始まるのですね」

 わかっていたのです。ヨハンネスを最初に見た時に男性と感じたのは騎士の服を着ていたからではなかったのでしょう。

 なんとなくですが、感が当たった。だからきっとオーロフもそのはず。

「ダンゴムシ!」

「何でしょうかお嬢様?」

 ダンゴムシと呼ばれたヨハンネスは、私の部屋まで訪れましたわ。

「本当のことを教えてくださいますか? ヴィクトーリアについて」

「父の許可が必要です」

「侯爵令嬢の命令です」

 ヨハンネスはそれでも答えることを渋る。

 よほど言いたくないことなのでしょうか。

「今解決する必要があります」

「わかりました。ですが、その。惹かないでください」

「ええ! ……ええ?」

 ヨハンネスから聞いた話は色んな意味でドン引きな内容でした。

「まず私にはヴィクトーリア・フランスワという姉がいらっしゃいました。若い女性ながらも姉さんは、騎士として優秀でして、ちょうどその頃デークルーガ帝国のユリエ様が女性の騎士をお探しでして姉さんが呼ばれたのです」

「やっぱり、私が昔見かけたユリエの傍にいた人はあなたの姉でしたのね」

「はい」

「それで今、お姉さんはどうされているのかしら?」

 私の予想が正しければ、貴方のお姉さんは、男性になり切ろうとしているはず!

「姉さんは……ある日突然デークルーガ帝国からアルデマグラ公国に帰ってきました。自分を男だと思い込んで」

「…………? 思い込み? 趣味とかではなく?」

 少しだけ私の想像と違う回答が返ってきました。しかし、やはりそうでしたか。オーロフ・フランスワという男性は、はじめから存在しないのですね。

 何よフランスワ姉弟。偽名大好きね。

「ではここから今、解決する必要な事態よ。私達がジバジデオ王国からデークルーガ帝国に密入国することがバレました」

「え? それは一体どういうことですか。お嬢様」

「貴方の話で確信しました。オーロフはデークルーガ帝国のスパイです」

「何故兄さんが?」

 まだ兄呼ばわりするのは、姉の意思を尊重しているつもりかしら。でも残念。

「貴方のお姉さんはね。一度たりともご自分を男性だなんて思っていませんわ。だってあの人、男性であろうとすることに固執しすぎなんですもの」

「それは自分が男性だからと思い込んでいるのに周りが女顔だと指摘するからであって」

「女性を女顔と指摘する人はいないわ」

「…………?」

「加えて騎士団の皆様はオーロフが本当は女性と知っているから別室なのですよね」

「ええ。そうです。騎士団内での暗黙の了解になっています。そうか、騎士団のみんなは兄さんを女顔って指摘しない」

「そうよ。さらに私は、城で一度オーロフを見たことがあります。城での男らしさアピールは誰に向かたものだったのでしょうか。あれはつまり、自分が男性だと思い込んでいるという設定を周りに見せつけていたのではありませんか?」

「ちょっと無理やりすぎませんか? まあ、仮にそうだとしてつまり兄さんは姉さんのままだったってことですか?」

「推測ですが」

「さきほど確信と」

「推測ですが! おそらくアルデマグラ公国に戻られた時から、オーロフは男性の人格を演じていたのでしょう」

「何故ですか?」

「女性のままだと私に近づきにくいからではありませんか? 幼少の頃とはいえ面識がありますし」

 私の考えはこうです。昔ヴィクトーリアはデークルーガ帝国に赴き、ユリエ様の元で働いていました。私がヴィクトーリアを見かけたのもこのころでしょう。

 ユリエ様の指示でヴィクトーリアはアルデマグラ公国にスパイとして潜入することになる。何故ヴィクトーリアが屈したかは置いておいてオーロフとヴィクトーリアが同一人物であることと、ヴィクトーリアがデークルーガ帝国で働いていたことが確かでしたら。

「オーロフが私に名乗るのはおかしいでしょ。オーロフとして合うのは初めてでも、隠す必要あったかしら?」

「それは女性であるころの記憶がなくなったから……いえ、兄さんはウチに戻ってきました。それにフランスワの人間であることは問題なくあった。あれ?」

「あるのよ。女性の頃の記憶。だって男性であり続けているのはすべてユリエの為なのだから」

 ヴィクトーリア・フランスワ。彼女はスパイ。私と初対面のふりをし、お見かけの際は過剰なまでの男性アピール。

 そして女性の頃の記憶は持ち続けている。自身を男性だと思い込んでいるのはおそらく常に男装でいても違和感のないフェイクに加え、男性名の偽名を名乗っていても違和感がない。

 初見の時に私はオーロフがなんとなく女性のような気がしましたが、本人が男性と名乗る上に、現に女顔の弟がいるせいで、すっかり騙されましたわ。

 そしてユリエの指示で男性と偽っているのでしたら、正しく天啓の正体ね。

 ユリエは国中、いえ、大陸中にスパイを拡散し、何らかの方法で情報のやりとりをしている。

 後はその何らかの方法の方ね。答えがわかれば天啓を暴ける。暴ければユリエ教はつぶせます。

 お父様より先に邪魔な戦争を潰さなければいけません。

「今残っている騎士の中にもデークルーガ帝国で働いたことがある者がいるか確かめましょう。それからこのジバジデオ王国の王宮内もよ……きっといるわ。そしてすべてが筒抜けになっているはず」

 ヨハンネスはすぐに走り出し、エレナとマリアにだけ事情を話し、すぐに情報収集を始めて頂きましたわ。
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