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第2章 公爵令嬢でもできること

2話 天啓ってわがままよりひどいのではなくて

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 国王陛下とユリエ様に推薦されたリンナンコスキ公爵閣下は、何故自分が今推薦されているのか全くと言ってわからないという感じでしたわ。それはそうでしょう。少なくとも、国王陛下側の推薦は、多少なりとも私のわがままが影響されているのですから。

 その証拠に、さきほど目があったグレイ様は軽くウィンクしてきましたわ。そういう合図なのですわよね?

 そうなのですわよね?

 そうなのでしょう!

 結果的に言えば保守派は猛反対。お父様も保守派代表として反対勢力に立たざる終えない状況でした。しかし、革新派と王家に反対意見を出そうと思わない中立派が賛同。また、でしょうかデークルーガ帝国とこれを機に親しくなろうとした方々もユリエ様の意見に賛同していますわ。大多数の意見がまかり通り、リンナンコスキ公爵閣下が次期宰相という方向性で話が進んでいきましたわ。

 しかし、ユリエ様はどのような経緯でこちらにいらっしゃったのでしょうか。結果としましては、多くの意見をリンナンコスキ公爵閣下に向けて頂き、とてもありがたかったのですが、彼女がわざわざ動く理由がわかりませんわ。いえ、天啓なのでしょう。きっと彼女はそう答えますわ。

 今回はまだ仮決定となっていますわ。後日また開催され、三度目ほどで本決定となるそうですわ。ですが、この調子でしたらリンナンコスキ公爵閣下になることは間違いなしでしょう。

 議会が終わり、周りの方々は親しい人と立ち話をし始めましたわ。私はレティシア様と歩いていますと、思いもよらぬ人物が今目の前にいらっしゃいましたわ。

「ルーちゃん? 元気でした?」

「ユリエ様!? 何故このような場所にいらっしゃるのですか?」

 傍聴席は、すでに様々な方が歩き回っているような状態になっていますわ。その中を、さも当然のように歩いてきたユリエ様に驚き、私は彼女とレティシア様の手を握って、すぐに人ゴミから抜け出しましたわ。

神子みこはルーちゃんとお話に来ました」

「みこ? あの、ルクレシア様。ユリエ様はなんと?」

「彼女、ご自身のことを神子みこと呼ぶのよ」

「そ……そうなのですね」

 心なしかレティシア様は引きつった笑顔になって返事していらっしゃいますわ。私はその呼び方を子供の頃から存じ上げていましたから、あまり気にしていませんが、まだ直していなかったのですね。

「ルーちゃん? 天啓がありました。ルーちゃんの思い通りに上手くできていました?」

「……? 天啓といいますと? もしかして議会のことですか?」

「え? ですが、ベッケンシュタイン家としてはむしろ不利なお話の方に行きましたよね?」

 確かにベッケンシュタイン家にとって、今回のリンナンコスキ公爵閣下最有力という結果が不利だということは彼女も理解しているようですわね。

「確かにベッケンシュタイン家としては問題かもですが、私としてはこれでいいのです。ですが天啓ではその話題はあまり口外しないで欲しいって聞こえませんでした?」

「天啓はあくまで進むべき道を記してくれるだけ。でも、今のルーちゃんをみてよく分かりました。私の天啓に過ちなどあり得ませんでした」

 彼女は何かと自身に聞こえてくるという天啓に過信していらっしゃるようですわ。無論、それらすべてを否定する気はありません。それにたまになのですが、本当に聞こえているかのようにずばりとあててきますのよね。

 ユリエ様とお話ししていますと、後ろからヨハンネスが声をかけてきましたわ。

「すみません、私はもう行きますわ」

「そうですか? では神子みこは天啓通り、レティちゃんと親睦を深めておきますわ。天啓では王都を案内してくださりますが、何か間違いでも?」

「ええ!? えと、畏まりましたわユリエ様!!」

 レティシア様、お気の毒に。少しばかり親友に同情しつつ、お兄様に連れられ先にベッケンシュタイン家の屋敷に戻ることになりましたわ。と、言いますかいつの間にかレティシア様のことを愛称で呼んでいますわね。

 しかし、久々に見た親戚は昔からさほど変わりありませんわね。

「それと天啓通り、本日はベッケンシュタイン家の屋敷にお泊りします」

「……何も違いありませんわ」

 彼女が天啓と口にした以上、その言葉は叶えなくてはいけない。それは彼女のルールです。そもそも隣国の姫殿下からの命令。あまり不敬なことは公爵家といえ、そう易々とできるものではありませんわ。彼女、私以上にわがままなのではなくて?

「お嬢様、これから約束通り師匠が通った酒造に行こうかと思いますが、どうでしょうか?」

「ワインですか? そうですわね。早くお供えして差し上げましょう」

「でしたら騎士服は目立ちますね。一度屋敷に戻って着替えてもよろしいでしょうか?」

「構いませんわ」

 お父様とお兄様はまだ王宮に用事があるそうですので、先に私とヨハンネスは屋敷に戻りまして、町に出かけるために着替えましたわ。

 しかし、ヨハンネスと一緒にお出かけなんて少しデート見たいですわね。まあ、私が平民とデートなどあり得ませんのですけれどね。

 もう少し可愛い服でも着たほうがいいかしら?

 私はスカートを軽く持ち上げ、花柄の刺繍が施されたそれは私から見ても十分可愛い。足を出さない長さのスカートを翻しながらエレナを呼びましたわ。

「エレナ? エレナ?」

「どうした? まだ可愛くなり足りないのか?」

「いえ、そうではないのですが、このスカートは私が穿いても可愛いのかしら?」

「おいおい、これからデートに行くんじゃねーんだぞ?」

「それはそうなのですが、なんとなくですが、町に出られると考えてしまいますと、変な恰好はしたくないのです」

 勿論、エレナの選んだ服が変な恰好という意味ではありません。ですが、この格好は女性にしては背が少し高めの私には、少し子供っぽすぎてミスマッチになってしまっていないか少々不安になってきましたわ。

 エレナはやれやれと言いながらも、私に似合う服を探すのを手伝ってくださいましたわ。やっと私でも納得のいく格好になりますと、エレナは多少苦笑いしていましたわ。

「変でしょうか?」

「いや、お前が私の言うことを一発で聞かずに試行錯誤するなんて珍しいなって思っただけだよ。普段なら二つ返事じゃねーか」

 確かにそうですわね。思ったよりも殿方と二人きりという事実に緊張しているのでしょうか。あれ? 忘れていましたが、ヨハンネスって殿方でよろしいのですよね?

 普段から騎士服のヨハンネスの顔は、ほぼ女性より。しかし、騎士服は女騎士用の制服ではなく一般の男性用の騎士服です。それを綺麗に着こなしていましたし、数日一緒にいましたが、いつの間にかヨハンネスは男性と認識していましたわ。それにヨハンネスは男性らしい体つきとも女性らしい体つきとも言えない中性的な体格をしていらっしゃいましたわ。

 突然ドキドキが収まり、緊張感が持っていかれてしまいましたわ。そして扉がノックされましたわ。

「お嬢様、ヨハンネスです」

「ど!? どうぞ」

 そこには、水色のワンピースを上手に着こなしたヨハンネスがいらっしゃいましたわ。

「貴方、やっぱり女性でしたのね」

「そういうつもりではございませんよ。今この格好を選んだのは、お嬢様と出かけるならこちらが良いと思ったからです」

 むしろその方がどういうつもりなのかしら?

 私と男性の姿で出かけるのが嫌ということですか?

 少しばかりがっかりしていますが仕方ありません。

「もういいです。行きましょうヨハンネス」

「この格好の時はラウラとお呼びください!」

「それがあなたの本名かしら?」

「いえ、本名はヨハンネスでもラウラでもございません」

 やっぱりこの護衛はダンゴムシでいいです。本名もダンゴムシです。ダンゴムシ・フランスワですわ。一人と一匹で出かける為、私たち馬車に乗り込み、ちょうどいい場所で降りて街中を歩いて酒造に向かうことにしましたわ。
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