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○○と○○は、紙一重。

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 ディー様に光魔法を使わせるのは危険。
 だが証明できないと、私が神殿に送り込まれてしまう。
 となれば。


「でぃーさま。めをとじていてくだしゃい」
「なぁに?」
「わたしがいいっていうまで、ぜったいめをあけちゃだめでしゅよ!」
「開けたら?」
「めつぶし」


 話しながらリボンをほどいて、ディー様の目を隠すために巻き付ける。
 ディー様は頬をちょっと赤く染めて照れながら「いまアイルといけないことをしてる?…アイルったら人前で大胆…」と寝言を言っているので、結構強めに頭を叩いて正気に戻しておいた。あ、これも不問でお願いします。


 そしてこの隙に、マーサさんが「いざという時のために」と靴に忍ばせておいてくれた小さな刃物を取り出し、自分の人差し指の先をほんの少しだけ切ると、一瞬おいてぷくっと血が玉のように出てきた。
 ディー様は今のところペットに対しては過保護の塊なので、きっとこの程度の傷でも回復魔法を使ってくれるだろう。

 血で汚さないように気を付けながら刃物を元に戻し、ディー様に巻き付けたリボンをほどく。


「でぃ、」
「アイルっ!!アイルの可愛い指に傷がっ、血がこんなに出てる…!」


 目を開けて下さい、と声をかける前に、何かを察知したディー様が目をカッと見開いて、ガっと私の指を掴み、とても辛そうな血の気の引いた顔でギュッと私を抱きしめた。
 血がこんなにって、紙で指先切った時より傷は浅いけど。気づかないうちに私重症を負ってたっけ?って位オーバーな過保護だ。


「でぃーさま、ちょっとこのきずなおしてくれましぇんか?」
「すぐに治すよ!」


 その瞬間、私とディー様の繋がれた手を中心に、強烈な光が広がった。


 誰もが予期せぬ強烈な目潰しに、そこかしこから「目が、目がぁぁ!」という叫び声が聞こえる。
 …あれ、今、滅びの呪文を唱えたんだっけ…?

 不思議なことに私の目は無事だったので、たくさんの大佐もどきがさ迷い歩く光景が目に入る。
 

 カオス。









「というわけで、きずはでぃーさまのまほうで、あとものこさずきえました」


 やっとみんなの目が見えるようになってから、先程の強い光はディー様の光魔法が放った光だったことを説明し、傷のなくなった指を見せる。
 疲れ切った陛下たちもそれを確認し、間違いなくディー様が光魔法を使えることが証明された。


 ただ、


「アイル嬢の回復魔法は、間違いなく回復魔法だ。だがオーディンの回復魔法は……あれは回復魔法と言っていいのか…?」
「アイル嬢に対しては回復魔法でしたが、わたくし達にとっては強力な攻撃魔法でしたわね…」
「もしアイル嬢がアレを覚えたら、せっかくの光魔法を封印してもらわねばならなくなるぞ…」
「治される側より、周囲が被る被害の方が甚大ですからね。兵士1名を治して騎士団を壊滅させるとなっては、使いどころが難しすぎますわ」
「いっそアイル嬢の光魔法はこのままの方が良いのではないですか?今より伸ばそうとして殿下の教えを受けさせるのが問題な訳ですから。下手に殿下の教えが混ざらなければ、少なくとも、得体のしれない魔法に変異することだけは防げるのでは?」
「そうさなぁ…」


 両陛下と魔法副師団長は、『光魔法だけどなんか違う』という結論に達したようだ。

 たしかにさっきのあれは、光と滅び、紙一重だった。



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