上 下
63 / 78

両陛下にご挨拶。

しおりを挟む
「こちらのお部屋でございます」

 時間となり部屋に迎えに来た兵士さんに案内されたのは、ディー様の部屋からそう離れていない…つまり王族の居住区にある、美しい薔薇の庭園に面した一室だった。

「あいがとうございましゅ」
「えっ⁉…いっ、いえ、お礼など…」

 案内してくれた兵士さん達に頭を下げてお礼を言うと、すごく戸惑われた。
 あれ、何か失敗したかな。

「アイル、これは彼らの仕事だから、頭を下げてお礼しなくてもいいんだよ」
「そうなんでしゅか?でも、おしごとだったとしても、おせわになったのでおれいをいうのはとうぜんじゃないでしゅか?」
「アイルは礼儀正しいし身分を気にしないからね。でもそうされると彼らは困ってしまうから、せめて頭は下げずお礼を言うだけにしようね」
「そうでしゅか…。こまらせてしまってすみましぇんでした」
「いえ、もったいないお言葉です」

 今度は頭を下げずに謝ると、兵士さんは苦笑しながら敬礼してくれた。
 やっぱりこの辺り、お辞儀文化の元日本人には難しいんだよね。



 部屋に入ると、大きな窓に面した日当たりのいい一画でテーブルに着く男女と、その後ろに控える侍女・侍従の方々。きっとあの方々がディー様のご両親で、この国の皇帝陛下と皇后陛下だ。

「父上、母上」
「オーディン。やっと会わせてくれる気になりましたのね」
「そんな気には微塵もなっていないのですが、アイルがお二人に挨拶をしなくてはと気にするので仕方なくです」
「事実だとしても、少しは歯に衣を着せられぬのか…」
「着せる必要性を感じません」

 …ディー様のところの家族仲は、なかなかドライなんだね…。
 でも決して仲が悪いわけではなさそうなので安心した。

 
「して、そちらのご令嬢が、オーディンが溺愛しているというウェヌス子爵家のアイル嬢か」
「ごあいさつがおそくなりもうしわけございましぇん。おはちゅにおめにかかりましゅ。あいる・うぇぬしゅともうしましゅ。おめにかかれてこうえいでしゅ」

 陛下がこちらに話を向けて下さったので、まだまだ拙いカーテシーで挨拶をする。
 今日は白から快晴の空のような青に変化するグラデーションが綺麗な、レースを重ねてふわふわしたシルエットのドレスをディー様がチョイスしてくれた。テーマは『風の妖精』だそうだ。完全にテーマ負けだ。そしてディー様は上は白いジャケット、下は青のスラックス。本日も完全に私と揃えにきていて、彼の方こそ『妖精界の王子様』と言われても納得の仕上がり。隣に並ぶと私がかすむどころか消えて見えないんじゃないかな。


「アイル嬢。我が息子が君を囲い込んでいたのはわかっているから気にしなくてよい。こちらこそやっと会えて嬉しいよ。儂はハリー・バルト・ディエバス。この子の父だ」
「可愛らしい子ね。わたくしはセレスティン・バルト・ディエバスです。この子の母親よ。今日はわたくしたち達だけの私的なお茶会だから、あまり緊張しなくても大丈夫よ」
「かんだいなおことば、あいがとうございましゅ、へいか、こうごうへいか」


 両陛下は滞在の挨拶が遅れたことは怒っていない様子だったので、心底ホッとした。とりあえず今すぐ首を切り落とされることは無さそう。


「アイル、こっちに座ろう。アイルが好きなショートケーキもあるから食べようか」
「え、あの」

 ディー様は挨拶が終わったとみるや、すぐに私の手を引いてテーブルに向かう。
 そしてマナーなど関係ないとばかりに、自分の膝の上に私を座らせた。


 両陛下はぽかんと呆気にとられた顔をしている。


 ちょっと、何してくれてんですかディー様ぁ⁉




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

処理中です...