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譲れない戦いが、ここにはある。

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 ディー様の言葉に固まったお父様は、使い物にならないので放置する。
 私もちょっと聞きたいのですが、

「でぃーさま、わたしがおーきゅうでくりゃしゅって、なんのはなちでしゅか」
「ずっと一緒って約束したよね?」

 ずっとが過ぎる。



「でぃーさま、わたしには、かえりゅおうちがありましゅ」
「うん、王宮ここだよね?」
「じゃんじぇん、ちがいましゅ。」
「え⁉」


 そんな、思いもよらないこと聞いた!みたいに驚かれても。
 むしろこっちがびっくりですよ。

「わたしは、うぇにゅ、しゅ、のおうちにかえりましゅ」
「……ずっと一緒って、約束してくれたのに……」

 またそんなしょんぼりして!喜怒哀楽が素直すぎて無下にしにくい!
 ディー様みたいな可愛い子供がそんな顔すると、幼児虐待してるみたいで罪悪感が100倍くらいになるんだからっ。
 うっかり思考能力奪われて、なんでも『うん、いいよ』って言いそうになるこの強制力。まさか魅了の魔法とか使ってます?魅了の魔法があるのかは知らないけど。


 でも私は負けない。
 負けるわけにはいかない。
 なぜなら、


「おうちで、あんりがまってりゅので、かえりましゅ!」


 可愛い弟が待っているのだ。

 アンリはまだあんなに小さいのだ。産まれたてなのだ。
 きっとしばらく離れたら私のことなどすぐに忘れて、次会ったときに『おまえは誰だ!』って不審者認定されて泣かれちゃうんだ。
 お父様に抱かれたときのアンリが脳裏に過ぎる……あんな風に泣かれたらと想像するだけで、今すぐ私が泣く。そして私にそんな風に思われていると知った父もギャン泣きする。
 今回の王都行きだって、領地と王都じゃ距離がある上に私という幼女も一緒だから強行軍など到底無理で、その分日数がかかっている。帰ったら忘れられてるんじゃないかと、今も心配で気が気じゃないのに。この上さらに王宮に滞在なんてしていたら…。

 だめ、むり、しんじゃう。こころがしんじゃう。ここはゆずれません。


「アンリって誰?」

 にこっと笑って首を傾げるディー様も可愛いけど、違うの。こんな、なんかよくわからないけどちょっと影のある感じの笑顔じゃないの。
 アンリは純粋無垢で、本物の天使のような可愛さなの。
 

「あんりは、うまりぇたばかりの、わたしのかわいいおとーとでしゅ」
「おとうと」
「すっごくかわいいんでしゅ」
「かわいい」
「あんりにあえにゃいと、わたしはないちゃうんでしゅ」
「ないちゃう」

 私の弟愛を伝える。
 ディー様は、私の言葉に頷きながら復唱し、「アイリが泣いちゃう…」と呟きながら考えている様子。
 これはいける!

「まいにち、あんりにぎゅーしてほっぺにちゅーしにゃいと、わたしはぽんこちゅになりましゅ」
「うん、やっぱり絶対にここで一緒に暮らそうね」


 何故その結論になった。 私にポンコツになれと?
 なんだかいけそうな気がしていたのに、あっさり手の平返された絶望感よ。


 
 
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