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てふてふに誘惑される私。

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 引き続き、迷子のアイル・ウェヌス2歳です。

「まいごのてっそく、そのばかりゃ、うごかにゃい…」



 と、わかってはいるんだけど。


「あ、ちょうちょ…」




 実年齢に引っ張られることも時々ある。人間だもの。







「ここは、どこでしゅか?」

 見たことのない青くてきれいな蝶につられ、ふらふらよたよた追いかけてしまった結果、広い庭園らしきところに立ちすくむ私の完成です。


 一応あたりを見回してみたけど、うん、見覚えなどあるわけがない。
 お城は大きいので、探さなくてもすぐにわかるのだが…


「……おっきーよー……」


 見上げすぎて、頭の重さに負け、ころんと後ろに転がった。
 さすが王宮。王様の住むお家。芝生すらやわらかく香しく気品がある、ような気がする。
 リサがせっかく頑張ってくれた髪やドレスは、見る影もなくボロボロだけど。ごめんね、リサ。


 きっとすでにお茶会は始まっている頃だろう。知ってる。
 でも、


「このままごろごろしてたりゃ、おうちかえるじかんになりゃにゃいかなー」

 もう動きたくないでござる。
 お茶会、嫌でござる。
 戻る気が一ミリも湧かないでござる。






 寝そべったまま、ぼーっと空を眺める。
 今日は雲一つない快晴。気温もちょうどよく、そよ風が気持ちいい。
 そうなると、幼児は眠くなる。本能の塊なので。

 必死に下がりくる瞼と戦っていると、
 空に飛行機が飛んでいるのが見えた気がした。


「……ひこーき?」


 こちらにはなかったと、思うんだけど…?


 眠気も飛んで目をぱちぱちさせながら、視線だけ動かして探すが、飛行機は見つからない。あっというまに消えた。
 気のせいだったか、と首を少し傾げた時、先ほど追いかけてきた青い蝶が現れ、目の前をふよふよと漂う。


「ちょーちょさん、わたしのはじめてのおともだちに、なってくれましゅ?」

 これだけ色気振りまいて私を誘うので、きっとむこうもその気だろう。違うとは言わせない。
 
 逃げられないように、そーっと蝶に手を伸ばすと、




「アイルの初めての友達には、僕が立候補したいな」




 さらりとした金糸の髪を日に透かし、逆光でもわかる今日の青空のような深い海のような蒼い瞳をとろりと甘くとろけさせた美少年が、上から私を覗き込み、伸ばしていた手を優しく握った。


 

 …そんなに色気振りまいて急に誘われたら、コミュ障はその気にならずに白く燃え尽き灰になるだけよ…。





 おそらく同世代の美少年に目を焼かれ、私の目から光が失われた。


 やっぱり迷子は、その場から動くべきではなかったんだね…。



 
 
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