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転生した私と、父。
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「…おとしゃま、げんき、なりゅ」
「アイルぅ…父様は元気だしとても嬉しいが…複雑だ~…」
夜になり帰宅した父に、母が妊娠の事実を伝えた。
すると父は一瞬固まった後、歓声を上げて母を抱きしめた。
…が、そこで母が「アイルも使用人たちも皆、すごく喜んでくれたのよ」と一言。
父は、娘どころか全使用人たちにまで先を越されていたことを知ってしまった。
私に抱き着きながらめそめそしているのが、今生の父。
ウェヌス子爵家当主の、レオポール・ウェヌス。
私が予想したように、母から一番に妊娠の事実を教えてもらえなかったことで、妻の妊娠は嬉しいものの、子供のように拗ねてしまった。
いつものことなので、適当にぽんぽんしておく。
1歳半の娘に泣きついて励まされているちょっと情けない父ではあるが、とても優しい人だ。
父レオポールは、濃紺の髪を肩まで伸ばして後ろで括った、笑顔の似合う23歳のイクメンダディ。
家族を愛し、領民を愛し、仕事にも真面目。
そんな文句のつけようもない素晴らしい人なのだが、
…とにかくメンタルが豆腐だ。
正確には家族に関することにのみ、メンタルがそうめん(乾麺1本)並みに折れやすい。まぁ気持ちいいほど簡単にポッキポキになる。
今回も現在進行形で私を抱き上げて腹に顔を埋めながら、妻の、娘>使用人>夫の優先順位に涙している。
「レオ様、次は男の子かしら、女の子かしら?楽しみねぇ」
「マリー…」
お父様を無意識にへし折ったお母様は、気が早いもので産着に刺繍を施しながらニコニコしている。
ところでその刺繍はナスですか? あ、蝶ですか。
お母様は以外に不器用だ。
お父様は複雑そうな顔でお母様をしばらく見ていたが、邪気のない笑顔につられたのか、徐々に笑顔を取り戻した。
この仲のいい夫婦は、いつだってこうだ。
お互いに拗ねることはあっても怒ったりせず、気付けば相手の笑顔につられて何で拗ねていたのかも忘れている。
お互いに一目惚れして大恋愛の末に結婚したらしく、何年たっても新婚のよう。
これほど想い合える相手に出会えたら、幸せだろうな。
「男の子でも女の子でもいいけれど、アイルのような優しい子に育ってくれたらいいね」
「あいりゅ?」
膝の上に抱えなおされた私の頬をつつきながら、父は紫水晶のような目を優しく細めて笑った。
でもお父様、私に似ても優しい子には育ちませんよ。
「リサに聞いたよ。今日はゲアルの仕事を手伝ったあと、腰をずっとさすってあげてたんだってね」
リサはお母様にへし折られそうな私をいつも救ってくれる命綱メイドで、私のお世話をしてくれている。ちなみにまだ辛うじて30代。
大貴族だと子供のお世話を乳母に任せきりということも珍しくないらしいので、親自らが手をかけ愛情もって育ててくれるこの家に生まれた私は幸せだ。
それでも貴族である両親は忙しい。ずっと私にかかりきりとはいかない。
そんな時にお世話をしてくれるのがリサで、生まれた時からずっと私を雇い主の子供というだけでなく、まるで孫か姪っ子かというように可愛がり、お世話してくれている。
昼間、両親の部屋を後にした後の私は、リサとともに庭師のゲアルの元に行き、雑草抜きをお手伝いした後に、腰を痛めている彼の腰をしばらくマッサージした。
まだ1歳半ではあるが、裕福ではない我が家で悠々と日がな一日遊んでいるのも落ち着かないので、自分でもできそうなささやかなお手伝いをするのが私の日課。
ほんとは前世と違っておもちゃがなくて暇、というのが理由の8割だが。
今なら退屈で死ぬと言っていた天帝さんの気持ちがわかる。
そしてお父様、私がしたのはマッサージです、たださすってたわけじゃないんです。
前世ではマッサージなんかしたことなかったけど、転生して私のゴールドフィンガーが開花したのか、私のマッサージはとても痛みが楽になると好評だ。
でもそれが何故優しさに繋がるのか。
雑草撲滅運動の先導者なんだけど。
「普通は一応貴族のお嬢様が、顔に泥をつけながら使用人の仕事を手伝って、体を気遣って腰をさすったりなんかしないんだよ」
「そうね、男爵家出身の私ですらしたことなかったわねぇ」
お母様も貴族らしくないと子供の頃散々言われていたらしい。
それでも使用人と一緒に働いたりはしなかったと。
「…りさもげありゅもみんにゃ、かじょく。おてちゅだいすゆ。いたいのや」
まだ1歳半の私は、悔しいことに片言なので、なかなか意思が伝わりにくい。時々、自分でも今なんて言ったの?みたいなことがある。
でもこの家の人たちは、苛立ったりせずに最後までちゃんと話を聞いて、私の言いたいことを理解しようとしてくれる。
そんな人たちが私は大好きだ。
だから私にできることならしたいと思うのは普通じゃないのかな?
まぁ、それを許してくれる両親の懐の大きさには感謝だよね。
「…やっぱりアイルは優しいね」
「自慢の娘だわ」
「お嬢様は今日も天使の様です」
お父様もお母様もリサも、相変わらずちょっと感性がズレてる。
せめて私だけは普通を忘れずに育とうと改めて思った。
「アイルぅ…父様は元気だしとても嬉しいが…複雑だ~…」
夜になり帰宅した父に、母が妊娠の事実を伝えた。
すると父は一瞬固まった後、歓声を上げて母を抱きしめた。
…が、そこで母が「アイルも使用人たちも皆、すごく喜んでくれたのよ」と一言。
父は、娘どころか全使用人たちにまで先を越されていたことを知ってしまった。
私に抱き着きながらめそめそしているのが、今生の父。
ウェヌス子爵家当主の、レオポール・ウェヌス。
私が予想したように、母から一番に妊娠の事実を教えてもらえなかったことで、妻の妊娠は嬉しいものの、子供のように拗ねてしまった。
いつものことなので、適当にぽんぽんしておく。
1歳半の娘に泣きついて励まされているちょっと情けない父ではあるが、とても優しい人だ。
父レオポールは、濃紺の髪を肩まで伸ばして後ろで括った、笑顔の似合う23歳のイクメンダディ。
家族を愛し、領民を愛し、仕事にも真面目。
そんな文句のつけようもない素晴らしい人なのだが、
…とにかくメンタルが豆腐だ。
正確には家族に関することにのみ、メンタルがそうめん(乾麺1本)並みに折れやすい。まぁ気持ちいいほど簡単にポッキポキになる。
今回も現在進行形で私を抱き上げて腹に顔を埋めながら、妻の、娘>使用人>夫の優先順位に涙している。
「レオ様、次は男の子かしら、女の子かしら?楽しみねぇ」
「マリー…」
お父様を無意識にへし折ったお母様は、気が早いもので産着に刺繍を施しながらニコニコしている。
ところでその刺繍はナスですか? あ、蝶ですか。
お母様は以外に不器用だ。
お父様は複雑そうな顔でお母様をしばらく見ていたが、邪気のない笑顔につられたのか、徐々に笑顔を取り戻した。
この仲のいい夫婦は、いつだってこうだ。
お互いに拗ねることはあっても怒ったりせず、気付けば相手の笑顔につられて何で拗ねていたのかも忘れている。
お互いに一目惚れして大恋愛の末に結婚したらしく、何年たっても新婚のよう。
これほど想い合える相手に出会えたら、幸せだろうな。
「男の子でも女の子でもいいけれど、アイルのような優しい子に育ってくれたらいいね」
「あいりゅ?」
膝の上に抱えなおされた私の頬をつつきながら、父は紫水晶のような目を優しく細めて笑った。
でもお父様、私に似ても優しい子には育ちませんよ。
「リサに聞いたよ。今日はゲアルの仕事を手伝ったあと、腰をずっとさすってあげてたんだってね」
リサはお母様にへし折られそうな私をいつも救ってくれる命綱メイドで、私のお世話をしてくれている。ちなみにまだ辛うじて30代。
大貴族だと子供のお世話を乳母に任せきりということも珍しくないらしいので、親自らが手をかけ愛情もって育ててくれるこの家に生まれた私は幸せだ。
それでも貴族である両親は忙しい。ずっと私にかかりきりとはいかない。
そんな時にお世話をしてくれるのがリサで、生まれた時からずっと私を雇い主の子供というだけでなく、まるで孫か姪っ子かというように可愛がり、お世話してくれている。
昼間、両親の部屋を後にした後の私は、リサとともに庭師のゲアルの元に行き、雑草抜きをお手伝いした後に、腰を痛めている彼の腰をしばらくマッサージした。
まだ1歳半ではあるが、裕福ではない我が家で悠々と日がな一日遊んでいるのも落ち着かないので、自分でもできそうなささやかなお手伝いをするのが私の日課。
ほんとは前世と違っておもちゃがなくて暇、というのが理由の8割だが。
今なら退屈で死ぬと言っていた天帝さんの気持ちがわかる。
そしてお父様、私がしたのはマッサージです、たださすってたわけじゃないんです。
前世ではマッサージなんかしたことなかったけど、転生して私のゴールドフィンガーが開花したのか、私のマッサージはとても痛みが楽になると好評だ。
でもそれが何故優しさに繋がるのか。
雑草撲滅運動の先導者なんだけど。
「普通は一応貴族のお嬢様が、顔に泥をつけながら使用人の仕事を手伝って、体を気遣って腰をさすったりなんかしないんだよ」
「そうね、男爵家出身の私ですらしたことなかったわねぇ」
お母様も貴族らしくないと子供の頃散々言われていたらしい。
それでも使用人と一緒に働いたりはしなかったと。
「…りさもげありゅもみんにゃ、かじょく。おてちゅだいすゆ。いたいのや」
まだ1歳半の私は、悔しいことに片言なので、なかなか意思が伝わりにくい。時々、自分でも今なんて言ったの?みたいなことがある。
でもこの家の人たちは、苛立ったりせずに最後までちゃんと話を聞いて、私の言いたいことを理解しようとしてくれる。
そんな人たちが私は大好きだ。
だから私にできることならしたいと思うのは普通じゃないのかな?
まぁ、それを許してくれる両親の懐の大きさには感謝だよね。
「…やっぱりアイルは優しいね」
「自慢の娘だわ」
「お嬢様は今日も天使の様です」
お父様もお母様もリサも、相変わらずちょっと感性がズレてる。
せめて私だけは普通を忘れずに育とうと改めて思った。
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