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第三章 過去編
真十話「鉄の国」
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「くそっ!」
「幾ラヤッテモ無駄デス」
アルビオンはネシアの操作を受け付けない。
「ネシア本部局長私ガ守ルゲキ人間ハモウ貴方シカイナイノデス」
「何を言っている?」
「ネシア!」
気づくとゼノの周りには複数のアンドロイドが、
「何をしている!アルビオン!」
「彼ハ敵デス即刻排除シナケレバナラナイ」
ゼノとの距離をじりじり詰めていくアンドロイド達。
不安な顔でネシアの方を見る。
「ま、待て!」
アンドロイドの動きが止まる。
「彼は人間だぞ!?お前が言う通りならゼノも守るべき対称な筈だ!」
「シカシ、彼ハ敵ト行動ヲ共ニシテイマシタ」
「敵?敵とは何だ!」
「データ上ニナイ、人間ト同ジ成分デ構成サレタ存在デス」
アルビオンは爆発の際に逃がしたと付け加える。
リリーの事だ間違いない。
二人はアルビオンの言う敵が誰なのか理解する。
何故アルビオンはリリーを敵だと判断したのか、データ上に無いとはどういう事なのか。
何もわからないが今はそれどころでは無い。
とにかくゼノを逃がす事を最優先にネシアがアルビオンに提案する。
「アルビオン、ゼノは敵ではない」
「ソレハ何故?」
「よく見てみろ、こいつの何処に脅威になる要素があるんだ?」
アルビオンは詳しくゼノを観察する。
体調、肉質、スキャンしたデータから判断する。
ネシアの言う通り、脅威になる要素は無い。
しかし、
「今ハ脅威デ無クトモ、将来的ニ脅威ニナル可能性ガアリマス」
「くそっ!」
思わずネシアはパネルを叩きつける。
どう言ってもアルビオンはゼノを脅威だと判断している。
このままではゼノは殺されてしまう。
「アルビオンよ取引をしよう」
ネシアは苦肉の策に出る。
「ゼノを逃がしてくれ、その代わりに私はお前の目の届く範囲に居よう。お前の存在意義は人間を守る事なんだろう? だったらこのまま私が目の前にいればお前も存在意義も果たせる筈だ。」
「シカシ彼ヲ逃ガスト言ウ事ハ脅威ヲ放置スルトイウ事ニナリマス、ソレハ出来マセン」
(やはりそう来るか……!)
ネシアは更に条件を付きつける。
「ゼノを逃がさないというのなら私はここで死ぬ」
「ネシア!?」
「ネシア本部局長、何ヲ言ッテイルノデスカ?」
思いもよらぬ条件にゼノもアルビオンでさえ困惑する。
考える隙を与えない様にネシアは畳み掛ける。
「アルビオン、人間を守りたいんだろう? ゼノを逃がさないと私は死ぬ、ゼノを逃がせばお前は人間を守るという目的が果たせる。どうする? 目的を果たすのか、放棄するのか」
「…………」
アルビオンはしばらく黙りこむ。
(いけるか……!?)
「分カリマシタ、彼ヲ解放シマショウ」
アンドロイドが道を開ける。
戸惑うゼノにネシアが諭す様に言う。
「ゼノ、リリーを頼む。此方は私に任せてくれ」
笑顔で言うネシアから後ずさりしながら離れていく。
ゆっくりと一歩一歩視線を外さない様にネシアから、アンドロイドから離れていく。
ゼノはアンドロイドが見えなくなった瞬間、全速力で走る。
(怖い、怖い怖い怖い怖い)
恐怖で足が速くなる。
息を切らしながらも全力で走る。
一刻も早くあの場所から立ち去りたかった、周りに居たアンドロイドから離れたかった。
「ネシアが……ネシアが!」
エデンから遠く離れるまで足を止めなかったゼノはとうとう限界に達し、その場に倒れ込む。
ネシアを見捨ててしまった。いや自分には何も出来なかった筈だ。逃げるのが最善策だった。
逃げた自分は無力だ。何かが出来ただろうか。
様々な思いでぐちゃぐちゃになる。
(とにかく帰らないと……)
リリーが待つ場所へと再び歩き始める。
---
更に半年の時が経つ。
「今日は三体……」
日課の周辺調査を進めていたゼノは今日の調査内容を書き記す。
しかし最近アンドロイドを見かける事が多くなった。
この半年でわかった事は、
アンドロイドの目の前に出ても、特に向こうから攻撃を仕掛けてくる事は無いという事。
アンドロイドとの会話は出来ない事。
最近アンドロイドを見かける事が多くなった事。
攻撃をしかけてこない事に関しては、きっとネシアがうまくやったのだろう。
「よし」
調査内容を書ききると、改めて内容を見直す。
約一か月前からアンドロイドを見かける平均数が0~1だったのが3~4にまで上昇している。
ゼノが調査している場所はこのエデン本部から1km圏内、大陸でいうと北と東の間の極一部の場所になるのだ。
(アンドロイドの数が増えている?もしくは東側に集中している?)
どちらにせよゼノにとってはうれしくない状況だった。
「どうなってるんだよ、なあリリー?」
健やかに眠るリリーを見つめながらため息をつく。
思えばエデンでの悲劇からずっと目を覚ましていないどころか、何も飲んだり食べたりしていない。
それでもリリーは何の変りも無く今も寝ている。
――いつ目覚めるのかわからない、一年以上、もしくは何十年もこのままかもしれない。
ネシアの言葉が頭を過る。
(もしかしたらずっとこのままなのかもしれない……)
ゼノは現在11歳になろうとしていた。
だが11歳に背負わせるにしては残酷すぎる現実だった。
---
ゼノは13歳になった。
相変わらず眠るリリーを横目にゼノは今日も調査を進める。
ゼノはその調査範囲をノースクがあった南側に変更していた。
もしかしたらまだ生き残っている人間がいるかもしれない。
そんなわけはないと分かっていながらも調査を続ける。
自分の生まれ故郷を前に懐かしさを感じながらも、変わり果てた風景に落胆する。
今日も特に成果は無い。
そう判断した時、人影を見つける。
(まさか本当に生き残りが!?)
急いで駆け寄るゼノ。
見るとアンドロイドだった。
(なんだ……)
再び落胆するゼノ。
「こんにちは」
……耳を疑った。
今こんにちはと言ったか?誰が?まさか目の前のこいつが?
「こんにちは」
再び聞こえるその声は、目の前のアンドロイドから発せられるものだった。
(間違いない!)
「こ、こんにちは」
おそるおそる答える。
すると満足したのか、アンドロイドは次の言葉を発することなくスタスタと歩き去ってしまった。
身震いがした。
あのアンドロイドが無表情ではあるが「こんにちは」と言ってきたのだ。
しかもアルビオンが発していたような機械的なものでは無く、人間が発するのと同じように肉声で「こんにちは」と言ってきたのだ。
ゼノは暫くその場から動けなかった。
---
更に2年後、ゼノは15歳になる。
最早アンドロイドを見かけない事の方が多くなった。
更に驚くべきことに、アンドロイドはどんどん変化していき、今では人間と変わらない見た目となっていた。
とてつもない不気味さを感じながら日々を過ごすゼノ。
まるでアンドロイドが人間の真似事をしている様だった。
「おはようございます」
「こんにちは」
「いい天気ですね」
口々にゼノに挨拶を交わす。
人間と何ら変わりない姿で、同じ仕草で、それが当たり前の様に振舞ってみせるのだ。
気が狂いそうだった。
---
更に半年後。
うんざりしながら再びノースクがあった場所へと足を運ぶ。
ゼノは驚愕する。
目の前の光景が大きく変わっていたのだ。
つい一週間前まではいつもと変わらない荒地だった筈が、今ゼノの前には国があった。
忘れもしない、自分の故郷。
国の入り口にはノースクを象徴する巨大な大樹が一つ。
それまで再現されていた。
「どうなっているんだ……」
完全に再現されたノースクの景色に圧倒されながらも、好奇心で町の中へ足を進める。
(すごい、戦争が起きる前の状態だ・・・)
何もかもが自分の記憶通りで感動すら覚える。
並ぶ家々の風景を懐かしみながら進むと、
「おはようございます」
一気に現実に戻される。
町の中にはノースクの人々を模したアンドロイド達で溢れかえっていた。
アンドロイドは初めからそこで暮らしていたように、人間の様に振舞っている。
異様な光景に固まっていたゼノにアンドロイドが更に続ける。
「ちょっと貴方大丈夫? ぼーっとしている様だけど……」
アンドロイドは人間と大差無いような仕草や言葉遣いで本当に人間の様にここで暮らしているようだった。
「あ、あああああ、ああああ!」
思わず逃げ出すゼノ。
恐怖と驚きでまともに走る事さえできないゼノは国のシンボルの巨大樹の根っこに足を取られる。
ガキンっと鈍い音がする。
ゼノは立ち上がろうとした際に根っこに触れた時に理解する。
(この樹は鉄だ……)
樹だけでは無い、アンドロイドは勿論、城下町の家々やノースク城までもが全てアンドロイドと同じ鉄で出来ている。
何かあったのかと、町のアンドロイドが騒ぎを聞きつけて集まってくる。
尚更恐怖に駆られるゼノはたまらなくなりノースクから走り去る。
リリーが待つアジトへ帰ってきたゼノは、暫く外に出る事が出来なくなってしまった。
「幾ラヤッテモ無駄デス」
アルビオンはネシアの操作を受け付けない。
「ネシア本部局長私ガ守ルゲキ人間ハモウ貴方シカイナイノデス」
「何を言っている?」
「ネシア!」
気づくとゼノの周りには複数のアンドロイドが、
「何をしている!アルビオン!」
「彼ハ敵デス即刻排除シナケレバナラナイ」
ゼノとの距離をじりじり詰めていくアンドロイド達。
不安な顔でネシアの方を見る。
「ま、待て!」
アンドロイドの動きが止まる。
「彼は人間だぞ!?お前が言う通りならゼノも守るべき対称な筈だ!」
「シカシ、彼ハ敵ト行動ヲ共ニシテイマシタ」
「敵?敵とは何だ!」
「データ上ニナイ、人間ト同ジ成分デ構成サレタ存在デス」
アルビオンは爆発の際に逃がしたと付け加える。
リリーの事だ間違いない。
二人はアルビオンの言う敵が誰なのか理解する。
何故アルビオンはリリーを敵だと判断したのか、データ上に無いとはどういう事なのか。
何もわからないが今はそれどころでは無い。
とにかくゼノを逃がす事を最優先にネシアがアルビオンに提案する。
「アルビオン、ゼノは敵ではない」
「ソレハ何故?」
「よく見てみろ、こいつの何処に脅威になる要素があるんだ?」
アルビオンは詳しくゼノを観察する。
体調、肉質、スキャンしたデータから判断する。
ネシアの言う通り、脅威になる要素は無い。
しかし、
「今ハ脅威デ無クトモ、将来的ニ脅威ニナル可能性ガアリマス」
「くそっ!」
思わずネシアはパネルを叩きつける。
どう言ってもアルビオンはゼノを脅威だと判断している。
このままではゼノは殺されてしまう。
「アルビオンよ取引をしよう」
ネシアは苦肉の策に出る。
「ゼノを逃がしてくれ、その代わりに私はお前の目の届く範囲に居よう。お前の存在意義は人間を守る事なんだろう? だったらこのまま私が目の前にいればお前も存在意義も果たせる筈だ。」
「シカシ彼ヲ逃ガスト言ウ事ハ脅威ヲ放置スルトイウ事ニナリマス、ソレハ出来マセン」
(やはりそう来るか……!)
ネシアは更に条件を付きつける。
「ゼノを逃がさないというのなら私はここで死ぬ」
「ネシア!?」
「ネシア本部局長、何ヲ言ッテイルノデスカ?」
思いもよらぬ条件にゼノもアルビオンでさえ困惑する。
考える隙を与えない様にネシアは畳み掛ける。
「アルビオン、人間を守りたいんだろう? ゼノを逃がさないと私は死ぬ、ゼノを逃がせばお前は人間を守るという目的が果たせる。どうする? 目的を果たすのか、放棄するのか」
「…………」
アルビオンはしばらく黙りこむ。
(いけるか……!?)
「分カリマシタ、彼ヲ解放シマショウ」
アンドロイドが道を開ける。
戸惑うゼノにネシアが諭す様に言う。
「ゼノ、リリーを頼む。此方は私に任せてくれ」
笑顔で言うネシアから後ずさりしながら離れていく。
ゆっくりと一歩一歩視線を外さない様にネシアから、アンドロイドから離れていく。
ゼノはアンドロイドが見えなくなった瞬間、全速力で走る。
(怖い、怖い怖い怖い怖い)
恐怖で足が速くなる。
息を切らしながらも全力で走る。
一刻も早くあの場所から立ち去りたかった、周りに居たアンドロイドから離れたかった。
「ネシアが……ネシアが!」
エデンから遠く離れるまで足を止めなかったゼノはとうとう限界に達し、その場に倒れ込む。
ネシアを見捨ててしまった。いや自分には何も出来なかった筈だ。逃げるのが最善策だった。
逃げた自分は無力だ。何かが出来ただろうか。
様々な思いでぐちゃぐちゃになる。
(とにかく帰らないと……)
リリーが待つ場所へと再び歩き始める。
---
更に半年の時が経つ。
「今日は三体……」
日課の周辺調査を進めていたゼノは今日の調査内容を書き記す。
しかし最近アンドロイドを見かける事が多くなった。
この半年でわかった事は、
アンドロイドの目の前に出ても、特に向こうから攻撃を仕掛けてくる事は無いという事。
アンドロイドとの会話は出来ない事。
最近アンドロイドを見かける事が多くなった事。
攻撃をしかけてこない事に関しては、きっとネシアがうまくやったのだろう。
「よし」
調査内容を書ききると、改めて内容を見直す。
約一か月前からアンドロイドを見かける平均数が0~1だったのが3~4にまで上昇している。
ゼノが調査している場所はこのエデン本部から1km圏内、大陸でいうと北と東の間の極一部の場所になるのだ。
(アンドロイドの数が増えている?もしくは東側に集中している?)
どちらにせよゼノにとってはうれしくない状況だった。
「どうなってるんだよ、なあリリー?」
健やかに眠るリリーを見つめながらため息をつく。
思えばエデンでの悲劇からずっと目を覚ましていないどころか、何も飲んだり食べたりしていない。
それでもリリーは何の変りも無く今も寝ている。
――いつ目覚めるのかわからない、一年以上、もしくは何十年もこのままかもしれない。
ネシアの言葉が頭を過る。
(もしかしたらずっとこのままなのかもしれない……)
ゼノは現在11歳になろうとしていた。
だが11歳に背負わせるにしては残酷すぎる現実だった。
---
ゼノは13歳になった。
相変わらず眠るリリーを横目にゼノは今日も調査を進める。
ゼノはその調査範囲をノースクがあった南側に変更していた。
もしかしたらまだ生き残っている人間がいるかもしれない。
そんなわけはないと分かっていながらも調査を続ける。
自分の生まれ故郷を前に懐かしさを感じながらも、変わり果てた風景に落胆する。
今日も特に成果は無い。
そう判断した時、人影を見つける。
(まさか本当に生き残りが!?)
急いで駆け寄るゼノ。
見るとアンドロイドだった。
(なんだ……)
再び落胆するゼノ。
「こんにちは」
……耳を疑った。
今こんにちはと言ったか?誰が?まさか目の前のこいつが?
「こんにちは」
再び聞こえるその声は、目の前のアンドロイドから発せられるものだった。
(間違いない!)
「こ、こんにちは」
おそるおそる答える。
すると満足したのか、アンドロイドは次の言葉を発することなくスタスタと歩き去ってしまった。
身震いがした。
あのアンドロイドが無表情ではあるが「こんにちは」と言ってきたのだ。
しかもアルビオンが発していたような機械的なものでは無く、人間が発するのと同じように肉声で「こんにちは」と言ってきたのだ。
ゼノは暫くその場から動けなかった。
---
更に2年後、ゼノは15歳になる。
最早アンドロイドを見かけない事の方が多くなった。
更に驚くべきことに、アンドロイドはどんどん変化していき、今では人間と変わらない見た目となっていた。
とてつもない不気味さを感じながら日々を過ごすゼノ。
まるでアンドロイドが人間の真似事をしている様だった。
「おはようございます」
「こんにちは」
「いい天気ですね」
口々にゼノに挨拶を交わす。
人間と何ら変わりない姿で、同じ仕草で、それが当たり前の様に振舞ってみせるのだ。
気が狂いそうだった。
---
更に半年後。
うんざりしながら再びノースクがあった場所へと足を運ぶ。
ゼノは驚愕する。
目の前の光景が大きく変わっていたのだ。
つい一週間前まではいつもと変わらない荒地だった筈が、今ゼノの前には国があった。
忘れもしない、自分の故郷。
国の入り口にはノースクを象徴する巨大な大樹が一つ。
それまで再現されていた。
「どうなっているんだ……」
完全に再現されたノースクの景色に圧倒されながらも、好奇心で町の中へ足を進める。
(すごい、戦争が起きる前の状態だ・・・)
何もかもが自分の記憶通りで感動すら覚える。
並ぶ家々の風景を懐かしみながら進むと、
「おはようございます」
一気に現実に戻される。
町の中にはノースクの人々を模したアンドロイド達で溢れかえっていた。
アンドロイドは初めからそこで暮らしていたように、人間の様に振舞っている。
異様な光景に固まっていたゼノにアンドロイドが更に続ける。
「ちょっと貴方大丈夫? ぼーっとしている様だけど……」
アンドロイドは人間と大差無いような仕草や言葉遣いで本当に人間の様にここで暮らしているようだった。
「あ、あああああ、ああああ!」
思わず逃げ出すゼノ。
恐怖と驚きでまともに走る事さえできないゼノは国のシンボルの巨大樹の根っこに足を取られる。
ガキンっと鈍い音がする。
ゼノは立ち上がろうとした際に根っこに触れた時に理解する。
(この樹は鉄だ……)
樹だけでは無い、アンドロイドは勿論、城下町の家々やノースク城までもが全てアンドロイドと同じ鉄で出来ている。
何かあったのかと、町のアンドロイドが騒ぎを聞きつけて集まってくる。
尚更恐怖に駆られるゼノはたまらなくなりノースクから走り去る。
リリーが待つアジトへ帰ってきたゼノは、暫く外に出る事が出来なくなってしまった。
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