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6話

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 そういえば週間天気予報で今日は雨マークだったような気がする。ただ、今朝は親友が早くに来たこともあり天気予報を確認せず、いつも使っている傘を家に忘れた。そのうえ、普段鞄の中に入れている折り畳み傘は骨組みを運悪く壊していて、つまりは、家に帰れない。親友は持っているのかと思えば彼も忘れたと言う。

「どうしよ。雨は止みそうにないし、こんなに土砂降りだと傘なしじゃ帰れないよ」
「キノが傘忘れるなんて珍しいよね。うーんどうしよう、一本でもあれば帰れるけど」
「職員室で借りられないか聞いてみる?」
「俺が前に借りに行ったら担任に『ない!』ってバッサリ言われたんだよね」
「えぇ、そんな」

 生徒玄関の真ん前で僕も親友も項垂れる。でも僕は落ち込む親友の隣でひっそりと喜んでいた。
 二人だけで一緒にいられるのだ。自然と心拍数が上がる。

「友達が余分に傘持ってきてないか聞いてくる」
「僕も」
「キノはここで待ってて、すぐ戻ってくるから」
「う、うん」

 僕が返事をすると親友は憂鬱な気持ちを吹き飛ばすくらいの爽やかな笑顔を僕に向けて走り去っていった。ああ、二人の時間が。

 十五分経った。相変わらずの雨だ。そして親友は帰ってこない。
 僕の横を通って何人もの生徒が傘をさして帰っていった。僕はそれを見つめる。たまにカップルらしき男女がひとつの傘を共有している。ため息を吐く。親友は帰ってこない。

「季乃」

 後ろから僕を呼ぶ声がして振り向く。親友かと思ったら翠川くんだった。

「傘忘れたのか」
「うん」
「こんなに降ってたら流石に帰れないよな」
「うん。だからいっちゃんが誰かに傘を借りに行ったんだけど、まだ帰ってこなくて」
「ふぅん」

 翠川くんは僕の隣に立って空を見上げている。傘はちゃんと持ってるのに帰ろうという素振りをしない。

「帰らないの?」
「ん?だって俺が帰ったら季乃はここで一人じゃん。なら幼馴染みくんが戻ってくるまで一緒にいるよ」
「いいの?」

 翠川くんの瞳を覗き込むように見れば、目許を緩ませて、

「何言ってんの、友達だろ」

 なんて言う。
 至近距離で微笑む翠川くんを見た僕は思わず照れてしまう。

「ありがとう」
「いいってことよ」

 そこから親友が来るまで翠川くんと話した。最近の授業のこととか、志望校のこととか、勉強の話ばかりだったけど。

「季乃は進学先は結構遠くにしたんだな」
「うん。このまま隣にいたら僕の中で何かが壊れちゃいそうなんだ。いっちゃんだって、大学行けば彼女できるでしょ?」
「さあ、わかんないよ。だって幼馴染みくん季乃にべったりじゃん。俺はこのままずっと一緒だと思うな」
「そんなことないよ。いっちゃんだって他に友達がいっぱいいるし、僕みたいな異物と一緒にいてくれるわけないよ」
「自分で異物って言う?確かに季乃みたいなのは少数派だろうけどさ、少しは幼馴染みくんを信じた方がいいよ」
「……それどういう」

 「キノ!」と僕の名前を大声で叫ぶ声が僕の言葉を遮った。声のした方に顔を向ければ、そこには走って近付いてくる親友の姿。

「俺は少なくともなんとも思ってない男友達相手にあそこまで必死になんないと思うよ」

 「これ使えよ」なんて僕に傘を差し出した翠川くんの手には折り畳みの傘がもう一本あった。僕が傘を受け取れば彼は僕の頭を撫でて帰っていった。

「いっちゃん、翠川くんが傘貸してくれたよ」

 いつの間にか僕の背後に立っていた親友に向かって傘を見せる。しかし、親友は黙ったまま僕を見つめている。

「いっちゃん?」

 もう一度親友の名前を呼ぶと、彼は何故だか傷ついたような顔をして一言叫んだ。


「キノは俺のことが好きなんだろ!!」
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