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ふり返る。由松の視界におびえが走るのが視界に入った。
伊兵衛は自分がどれだけ罪深いことをしているかを改めて突きつけられる。
そんな彼の心情を察してか、由松は凛とした表情を浮かべた。その上、
「お見事な業前です、伊兵衛様」
と告げてきた。
「いや、人を救う陰陽師が人の命を奪っていては本末転倒というもの」
伊兵衛は首を横にふる。
「しかし、血を見ずに済む状況ではない。参ろう、由松」
「わたしもともに罪を背負います」
哀愁の一言に、間髪いれずに由松が返したせりふに伊兵衛は一瞬ハッとさせられた。
「それは心強い、ありがとう」
伊兵衛は礼をのべ、由松とともに移動を開始する。その足取りは確かなものだ。
広間への道順は憶えていた。
表の門へと向かいながら徳兵衛の起こしているであろう騒ぎで屋敷の藩士の多くが母屋を空けているおかげでふたりは誰かに見咎められるこおなく新納重政のもとへとたどりつくことができた。
乱暴に障子を開け放つ。
「おんしは」と驚愕の叫びをあげる重政と再会した。
酒宴の最中と見え、酒肴が膳に用意されている。
「早かったな伊兵衛」
「もう少し、酒を楽しみたかったか、むめ」
軽口を伊兵衛とむめは交し合った。
「仇の顔を見て飲む酒など不味くてかなわない。それに贅沢なら、島津家の屋敷で散々楽しんで飽いている」
重政に告げたのとは正反対のせりふをむめは口にする。
伊兵衛は自分がどれだけ罪深いことをしているかを改めて突きつけられる。
そんな彼の心情を察してか、由松は凛とした表情を浮かべた。その上、
「お見事な業前です、伊兵衛様」
と告げてきた。
「いや、人を救う陰陽師が人の命を奪っていては本末転倒というもの」
伊兵衛は首を横にふる。
「しかし、血を見ずに済む状況ではない。参ろう、由松」
「わたしもともに罪を背負います」
哀愁の一言に、間髪いれずに由松が返したせりふに伊兵衛は一瞬ハッとさせられた。
「それは心強い、ありがとう」
伊兵衛は礼をのべ、由松とともに移動を開始する。その足取りは確かなものだ。
広間への道順は憶えていた。
表の門へと向かいながら徳兵衛の起こしているであろう騒ぎで屋敷の藩士の多くが母屋を空けているおかげでふたりは誰かに見咎められるこおなく新納重政のもとへとたどりつくことができた。
乱暴に障子を開け放つ。
「おんしは」と驚愕の叫びをあげる重政と再会した。
酒宴の最中と見え、酒肴が膳に用意されている。
「早かったな伊兵衛」
「もう少し、酒を楽しみたかったか、むめ」
軽口を伊兵衛とむめは交し合った。
「仇の顔を見て飲む酒など不味くてかなわない。それに贅沢なら、島津家の屋敷で散々楽しんで飽いている」
重政に告げたのとは正反対のせりふをむめは口にする。
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