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    六

 島津家上屋敷の敷地のなかに徳兵衛と朋輩三人の姿があった。
 大兵肥満、長身痩躯、短軀ながらもたくましい体つき、というのが後者の姿だ。それぞれ、又左衛門、清蔵、喜平次という。
 目付にことを報告していては息子の命が危うい、手を貸してほしいと徳兵衛が朋友と呼ぶべき者たちに頭をさげてまわった結果あつまった者たちだ。隠密働きを任とする小人目付であるがために、腕利き揃いでもあるがそれでも○○○家に忍び込むなど正気の沙汰ではない。隠密をもぐり込ませても戻ることのない地として薩摩は有名な土地なのだから。
 だが、それでもなお承諾をした者たちなだけにその士気は非常に高い。
 各々の目は、陽光のもとの名刀のごとき苛烈な光を帯びていた。
 母屋へ近づいていく徳兵衛たち。
 だが、ついに見つかる。
 大気をかすかに裂く音。応じて、徳兵衛の朋輩のひとり又左衛門が抜きつけの一撃を宙に走らせた。
 銀弧に何かが弾かれ高い音が鳴った。
 間近に落ちた手裏剣が徳兵衛たちの視界に入る。
「手裏剣、細作か」
「薩摩の忍びといえば山潜り」
 仲間の間で警戒のこもった声がもれた。
 その声音に応じるように、母屋の屋根から複数の影が降ってくる。白兵戦を想定してか、定寸の大刀を各々帯びていた。
 四人の忍び者のうち、二人が抜刀する。
 天に昇ろうとするかのごとく刀身が頭上、ななめ上へとのびた。
「薬丸自顕流」
 戦慄の声が喜平次の口からもれる。覚悟していてもなお、その流儀はおそろしい。薩摩の地が生んだ最強の兵法。まだ幕末には間があるためその知名度は限定的なものでしかないが、それでも徳兵衛たちのような立場の者にはとどろいていた。
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