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 すばやく刀身をみきが引き抜くと相手はそのままその場に崩れ落ちる。そこに、
「下郎、ここが御公儀から御役目をあずかる武家の屋敷と知ってのふるまいか」
 まだ声変わりをしていない男子の声が聞こえてきた。
 ふるえもなく相手を叱責してみせたこと自体は褒めてやりたい。
 が、徒手空拳で忍び者を刺激するようなことをしている、という事実には叱りつけたい衝動に駆られる。
 由松――みきは刀身を肩にかついであわてて隣の部屋に通じる障子を開け放った。
 そこにはみっつの人影がある。
 ひとつは由松、残りのふたつは忍び者だ。
 電光石火、敵の片方が胴への斬撃を送ってくる。
 突然の出現にもうろたえることなく応じるのはさすがは忍び者だった。
 みきは弟の危機に焦慮を抱きながらも、兵法に通じる者としてつい心の片隅で感心してしまう。
 同時に電光の速度でみきの両腕が動いた。
 左手のひらを立てた刀身にそえて斬撃を受けたのだ。火花が闇を一瞬赤く染める。
 力押しで忍刀をすり落とした。女子とは思えない恐ろしい膂力を彼女はそなえているのだ。
 が、さすがは闇に生きる者、忍び。こちらの動きに機敏に応じ、体勢がくずれるのを避ける。
 その間に、小さなうめき声が聞こえた。
 由松がもうひとりの忍び者に当て落とされたのだ。
「由松」とみきは怒鳴る。
 だが、目の前の忍び者が油断なく構えているせい、で部屋を出て行く由松を担いだほうを追いかけることができない。
「由松」胸が引き裂かれる思いでみきはもう一度叫ぶ。
 銀光一閃、その口をふさごうとするように対峙する忍び者が攻撃をくり出した。
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