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「お侍様や中間の連中、行商人が出入りするのはわかるが、幾人もの町人が出たり入ったりしてるようだ」
「係わりあいにならないほうが為だ」
「なんでだい」
「怪しげな宗門の根城なってるのさ、あすこは」
「怪しげな宗門ねえ」
 彦三はわざと真剣みに欠ける声を出す。
 すると、親切な行商人は表情を真剣なものにして話をさらに聞かせてくれた。
「ついこの間も、ひとりのお坊さんが中に入っていったんだが、ついに出てこなかったのさ」
「なんで、出てこなかったってわかるんだい」
「人助けで有名なお方で気になったから、出てくるところや、この界隈を歩いているところを見かけたら教えてくれるよう、このあたりの行商人連中に頼んだんだが、結句のところ誰も見なかったのさ」
「それは恐ろしい」
 彦三はうなずきながらも、
「そういやあ、従兄弟の奴がなにやらっていう宗門の門徒に最近、なったって話を聞いたな。心配だから、もう少
 と言葉をついだ。

    十一

 伊左衛門はすべての荷物を持って、徳兵衛の屋敷を訪れていた。
「お世話になります」
「もとはといえば、それがしの娘を助けたことに端を発したこと。己の家と思うてくだされ」
 頭をさげる伊兵衛に、徳兵衛は申し訳なさのにじむ表情で告げる。
 ささ、と徳兵衛にうながされ、足もとを綺麗にした伊兵衛は屋敷へとあがった。
 なぜ、このような仕儀となったのか。
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