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 まだだ――宗左衛門はくちびるを突き出すような形にして鋭い呼気を吐く。
 とたん、権之助が悲鳴をわかせた。含み針を眼球に受けたのだ。
 迅速に宗左衛門は勝利をつかみにかかる。相手の指を極めた。
 小さくも凄絶な音。指を折られた権之助は長剣を手から取り落とす。
 容赦はしない、宗左衛門は裂帛の気合とともに股間を強打した。
 今度は悲鳴すらもれない。
 権之助は無言で悶絶死した。
「あくまで恥辱を与えるために徒手空拳でとどめを刺すのだ。なにも暗器を使わないとはいっていない」
 敵の敗因は、既製の概念にとらわれたことだ。
 自分が死んでも悲しむ者などいない、そう思い込んでいた宗左衛門と同じ。
 今になって、父の肩車の価値の重みを痛感する。そして、
「清峰忍群頭領、権之助討ち取ったり」
 宗左衛門は声を限りに叫んだ。

 これを機に、下屋敷の闘諍はじょじょにおさまっていった。
 清峰忍群がついている、その意識あればこそ奸物たちの手先は存分に戦えたのだ。
 その中核を失ってまで抵抗する者はいない。

   終章

「どこか精悍になられたような気がするの、内藤氏(うじ)」
 同僚の太兵衛の言葉に宗左衛門は心の臓をすくませた。
 場所は当番所、文書の起草の最中のことだ。そう、宗左衛門は近ごろ登城するようになっていた。毎回ではないが、二回に一度ほどの頻度で妹と入れ替わりで勤番に出ている。
 顔立ちが瓜二つといってもそこは男と女、とわと別人であることが見抜かれようとしているのかと宗左衛門は内心慌てていた。
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