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「ここはわしひとりで充分、先に行くがよい」
 菊次郎は肩越しに宗左衛門たちに告げる。
「かたじけありませぬ、伯父上」
「水臭いことを申すな、わしとて弟の仇も討ちたければ、姪の無事を案じてもおる」
 宗左衛門の言葉を伯父は笑い飛ばした。
 それに感謝しながら、仲間をうながし宗左衛門は先を急ぐ。

   六

 とわたちの行く手に再び人影が現われた。数は五つ。
 母屋の屋根から忍び者たちが飛び降りてきたのだ。忍刀を抜き放ち、銀の軌跡を引きながら彼らは殺到してくる。
「ここはあっしらに任せな」
 酔漢を思わせる不規則な足取りで卯吉が飛び出した。手には十手をにぎっている。
 彼とならぶ形で、金次もまた迎撃に向かった。風に木の葉が舞うように、変幻自在かつ迅速な足捌きを見せる。こちらは棒を構えていた。
 閃、閃、忍び者たちが銀光を走らせる。
 が、幻惑や機敏さによって卯吉と金次は剣を避けた。同時に間髪いれずに十手、棒がうなりをあげる。
 ひとつ、ふたつ、と忍び者が地に伏した。
「お願いね」
 とわたちはふたりを横目にしながら数奇屋へと近寄る。
 そんな彼らを出迎えるようにふたりの人間が表に姿を現した。
 とわの兄の弥市と、獣遁使いの兼松、それに清峰忍群頭の権之助。
 とわは宗左衛門と目配せした。
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