引きこもり侍始末(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

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　塀の上にたどりつくや、梯子の上端をつかんで安定させる。
　彼が無言で下に合図を送ると菊次郎が登ってきた。
　武術で鍛えているとはいえ、なれぬ梯子という足場にすこし危うさがのぞくが無事に登り終える。
　それに与助、金次郎、卯吉、最後にとわがつづいた。
　かすかにではあるが、表門の方から闘諍の気配がつたわってきている。
　あきが捕われているのは数奇屋――宗左衛門は梯子を引きあげ、塀の内側におろしながらもそれらしく建物に強いまなざしを送った。
　彼らが立つのは数奇屋への最短距離だ。
　ふたたび梯子を使い、全員が敷地へと降り立つ。
　だが、そこで玄関のある方角から複数の人影が疾走してくるのが映った。
　夜目の利く宗左衛門の視界には、どう見ても正式な家臣には見えない装をした侍たちの姿が入っている。
　そのなかの一人が駆け寄ってくるや、薙刀を猛然とふるった。
　銀光の伸びが違う。かがむか、上に飛ぶ以外に不可避の斬撃。
　が、唸りをあげてそれを迎え撃った影がある。
「うぬ」
　薙刀のぬしの呻くような声と刃があげる悲鳴がかさなった。
　長大な刃が粉微塵に宙で砕けた。原因は菊次郎がふるった長大な振棒にある。刃筋の通しにくい多面で硬質な重量のある物体が容赦なく敵の得物の刃を粉砕したのだ。
「長柄をふるうとは気が合うな」
　顔を蒼褪めさせる浪人者に、菊次郎は豪快な笑みを向ける。
　ただし、その目は笑っていない。
　一度、二度と威圧するように軽々と振棒をふりまわす。
「得物ごと頭蓋を砕かれたい者から前へ出ろ」
　常軌を逸した得物、膂力を前に十数人からなる用心棒たちが立ち止まって凍りついた。