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剣を奪われまいとして、あきはとっさに全力でそれに対抗した。それが隙となる。
 残り二本の熊手が部屋の出入り口からこちらへと殺到した。得物をあきらめて柄から手をはなしたときには遅い、熊手がこちらの手足をつかむように引っかける。
 引き戻される力であきは転倒した。なんとか受け身をとって息が詰まるのは阻止する。だが、それが限界だ。
 殺到する三人の忍び者全員の攻撃を防ぐことは不可能。みぞおちを強烈な衝撃が突き抜ける。手加減なしの敵の拳打が決まったのだ。あきはなんとかこらえようとしたが、遠のく意識を引き止めることはできなかった。
「兄、上」
 彼女はもっとも大事な人のことを呼んだ。完全に気を失う寸前。

   二

 あたりが静けさに、しじまに、静寂につつまれた。敵が去ってしまったことを宗左衛門は悟る。とたん、彼は草鞋も脱がずに屋敷へと飛び込んだ。そう広くもない屋内を駆けずりまわって妹の姿を探し求める。
 ぽつりともれた言葉は絶望の響きを帯びていた。
「おらぬ」
 自分が煙幕に飛び込むべきかどうか躊躇しているうちに妹は連れ去られてしまったのだ。
 つまり、己が判断を誤ったことであきは拐された、その事実は丸太で打ち据えられたかのごとき衝撃を彼に感じさせる。
 自然と下肢から力が抜けて居間の畳の上にへたり込んだ。
 目の前が真っ暗になる。それがしが失敗りを犯したために――その言葉が脳裏を覆い尽くそうとするように増殖しつづけた。
 まだ秋だというのに冬のただなかのごとき寒気をおぼえる。
「――門」
 なにかが聞こえる気がした。宗左衛門はその正体を探る気力がわいてこない。
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