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 が、そんな彼の急激に動く視界に相手の“笑み”が入った。攻撃の前兆と思った身体の反応は敵が意図的に起こした誘いだったのだ。
 気づいた瞬間、宗左衛門はすばやく身をひねる。同時に銀光が視界を走った。
 手の甲に、激しく燃えあげるような痛みが生じる。それを強引に無視して宗左衛門は武術の体捌きで常人が目を見張るような角度で動き大きく相手と距離を置いた。
 間一髪、彼が元居た空間を閃光が薙いだ。
 相手から目をはなさずに手をやや上にあげて傷を確認する。手の甲が深く裂かれていた。
 刹那、目が眩むようにして周囲の景色が一瞬消える。
 天井の板を突き破って影が降る、同時に銀光が走った――記憶が、甦った。
 今まで必死になって思い出そうとしても叶わなかった父の死の瞬間。それが、同じ太刀筋と死の文字が彫られた玉眼を追い込まれた状況のなかで同時に目の当たりにしたこと、そして強烈な感情の動きに見舞われたで回復した。
「貴様は父の仇」
 宗左衛門は呆然とつぶやく。
「ようやく、思い出したようだな。人は恐ろしい出来事に遭遇するとそのことを忘れることがある、おおかたおぬしもそのような状態に陥っていたのであろうな」
 彼の言葉を耳にし、忍び者の頭は皮肉な笑みを浮かべた。
 決定的だ。相手が認めたのだ、間違いない。同時に宗左衛門は失望の念に似た思いを己に対して抱いた。
 やってしまった――宗左衛門は目の前が真っ暗になるような思いを抱き寒気に似た感覚に襲われる。
 平素の状態でさえ勝つのはむずかしい相手だ。それを、片手に十分な力が入らない状況で戦いを挑まなければならないのだ。ここだという正念場で自分はなんという失態を犯したのか。
 妹を救おうと焦るあまり、普段であれば見抜けたであろう誘いに乗ってしまった。しかも、動きが感情の乱れのせいでかなりにぶっている。
 このままでは、妹を死なせてしまう。
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