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三
その後、忍び者を二人がかりで気絶させ、とわは金次を呼んできた。医者である彼が近くにいることで、宗左衛門が忍び者を背負って歩いていても怪我人、急病人に見えるという算段の上でのことだ。
「親父さんの言葉を素直に聞くとは思わなかったが、またむちゃをするさぁ」
と方言らしきものをのぞかせて彼は首を左右にふったが、「やってしまったものはしかたがないさぁ」と協力してくれた。
そして、宗左衛門の屋敷の使わなくなった倉に忍び者を放り込む。組屋敷の門番には「近くで倒れていた、捨て置くのも忍びないため当家で介抱する」と説明しておいた。物好きな、とあきれられたが怪しむそぶりは見られなかった。
そこに、あきが現われた。その表情は非常に不機嫌だ。
「無茶をなさるなら、せめて事前にわたしに一言いってください」というのが理由だった。
もっともだが、妹に告げる間もなくとわに引きずられてしまったのだから宗左衛門としては責められても困る。だが、彼女の表情のこわばりが機嫌をそこねていることだけではないことがすぐにあきらかになった。
「肥後清峰富樫家家中を名乗られる御仁が当家に参られております」
早くも敵にことが露見したか、と宗左衛門たちは緊張のまなざしを互いに交差させる。
「もし露見したとして、正面から正々堂々とやって来るものか」
そこに金次が疑問をさしはさんだ。確かに、と宗左衛門はうなずく。
その後、忍び者を二人がかりで気絶させ、とわは金次を呼んできた。医者である彼が近くにいることで、宗左衛門が忍び者を背負って歩いていても怪我人、急病人に見えるという算段の上でのことだ。
「親父さんの言葉を素直に聞くとは思わなかったが、またむちゃをするさぁ」
と方言らしきものをのぞかせて彼は首を左右にふったが、「やってしまったものはしかたがないさぁ」と協力してくれた。
そして、宗左衛門の屋敷の使わなくなった倉に忍び者を放り込む。組屋敷の門番には「近くで倒れていた、捨て置くのも忍びないため当家で介抱する」と説明しておいた。物好きな、とあきれられたが怪しむそぶりは見られなかった。
そこに、あきが現われた。その表情は非常に不機嫌だ。
「無茶をなさるなら、せめて事前にわたしに一言いってください」というのが理由だった。
もっともだが、妹に告げる間もなくとわに引きずられてしまったのだから宗左衛門としては責められても困る。だが、彼女の表情のこわばりが機嫌をそこねていることだけではないことがすぐにあきらかになった。
「肥後清峰富樫家家中を名乗られる御仁が当家に参られております」
早くも敵にことが露見したか、と宗左衛門たちは緊張のまなざしを互いに交差させる。
「もし露見したとして、正面から正々堂々とやって来るものか」
そこに金次が疑問をさしはさんだ。確かに、と宗左衛門はうなずく。
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