引きこもり侍始末(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

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　木陰から屋敷の門前に目を向けると、法被姿に下の着物を尻っ端折りにした中間が姿を現していた。中間か、と宗左衛門は嫌そうな顔をする。渡り中間などには柄の悪い者も多く、正直話しかけたくなかった。
　が、「行っ、て」とふたたびとわにうながされる仕儀となり、しかたなく宗左衛門は木陰を出る。
　こちらの姿に声をかける前に中間は気づいた。
　見知らぬ浪人が近づいてくるという自体に、彼もまた警戒したようすを見せる。
「しばし、しばし」と呼び止めて、先ほどと同じ文句を宗左衛門は口にした。だが、そのあとの反応が違う。
「それはそれは、ご苦労なことで」
　老年の中間は目を細めた人のいい顔で応じた。しかし、その表情がくもることになる。
「卒爾ながら申し上げますと当家は少しごたごたしており、とても新たに人を召抱える状況にはありませぬ」
「ごたごた、でござるか」
　宗左衛門は怪訝な表情を作って聞き返した。
　本来なら、外部の人間になど話していいことではないだろう。しかし、人間は好奇心の生きものだ。中間がむずがゆいような表情を見せる。しばしの逡巡のあと、
「ここだけの話でございますが」
　と御家騒動の内幕について彼が知っていることを語った。
　それによると、上屋敷を藩政を欲しいままにしている国家老・江戸家老派の者が根城にし、中屋敷に次期藩主と彼に与する人間が集まっているということだ。
　しかも、
「あくまで風聞でございますが、家老たちは若様を亡き者にせんと画策しているという話もありまする」
　ということだった。ここまで語ったところで、ふと我に返ったように中間は身震いする。