引きこもり侍始末(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

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「という、次第です」「与助殿がおとわを拐した」
　宗左衛門は唸るような声でその事実をくり返した。衝撃的な事実を前に、つい判断力がにぶって話を鵜呑みしそうになる。
　だが、待てよ、という声が頭の奥からひびいた。自分が見た彼はどうだった。朋友の娘を拐し逐電するような男だったか。
　答えは否だ。
　そもそも、なにゆえに他人の子供を拐す。人質か。その父が死んでいるというのにありえない。では、売り飛ばすためか。だったら、とうに金子に換えているはずだ。
　しかも、とわを娘として育てているのだ。とても、そんな悪事に手を染める人間とは思えなかった。
　そのことを妹に明かし、さらにとわの無事を告げたあとに彼にかけられた言葉を妹につたえる。
「それがしには、とてもあの御仁がさような悪事をなすとは思えぬ」
「さようでございますね」
　兄の話した内容を精査した顔つきのあきは、こちらの言葉に顎を引いた。
「この一件、おとわには秘しておこう」「はい」
　宗左衛門はそう結論づけて妹もそれに同意する。

　それから、彼は本当に立ち合うことになって庭で妹と対峙した。しかも、素手対素手ではない。