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「したが、なかなかいい業前してるじゃねーか、二本差し」
 しかし、そんな与助の言葉など耳に入っているようすもなく卯吉は宗左衛門へと、先ほどの行為から一転して親しげな笑みを向けてきた。
 一方、宗左衛門は渋面になっている。それはそうだ。一方的に腕試しを挑まれ勝手に満足されてもなんだか得心がいかない。あきといい、何ゆえにそれがしのまわりにはかような血の気の多い輩が集まるのであろうな――そんな思いを抱いていた。

   七

 とわは重たい瞼をを開けた。いつの間に自分は眠ったのだろうかと疑問をおぼえ一拍の間のあと、意識を失うまでの出来事を思い出した。宗左衛門の妹を助けるためにむちゃをしたせいで血を失い過ぎ、気を失ったのだ。
「目を、覚まされましたか」
 武家くさいせりふが脇からかけられる。
 視線を向けると、すぐそこに複雑な顔をしたあきが端座していた。外で見かけたときと違う、女人の髪型など女人の装をしている。
「加減はいかがか」
「少し気だるい気が」ほんとうは、まだ起き上がるのが億劫なほど倦怠感が強い。それでも、とわは半身を起こした。弱い姿を他人に見せたくない。
「見事な業前でございました。感謝を申し上げます」
「いえ」
 むしろ、無様だったというのがとわの実感だ。金次がいなければ、あきのもとにたどりついたものの犬に噛み殺されていただろう。
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