引きこもり侍始末(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

１３

　お陰で、こちらの剣気に抗しようと精神的に前のめりになっていた若造が、泳いで居つく。
　その隙に乗じ、権之助は電光の速度の突きを相手の喉に向けて放った。
　硬直した下肢の動きは間に合わない、そう瞬時に判断したらしく若造は上体をそらす。
　こちらの大刀の剣尖は相手の喉をかすめるに終わった。ほう、と感嘆の息を権之助は内心もらす。
　さらに、痛みでかえって剣気の呪縛が解けたらしく縮地で若造は後方へとさがった。
　権之助は刀身をひきもどし、青眼から剣をふりおろす。体を開いて躱すのに対し、さらに二の太刀。立てつづけの斬撃はまさに閃光。
　しかし、驚くべきことが起こる。最後の攻撃の瞬間、若造が距離を詰めひざ立ちになって交差させた腕でこちらの手首をとらえたのだ。当然、刀身は空を切った。
　たしかに予想外の動きだ。常人であれば驚愕で動作が止まったかもしれない。
　けれども、権之助はの範疇にいる人間ではなかった。剣戟を交わしている間はなかば彼の肉体と精神は乖離している。
　一瞬裡のうちに最適な行動をとり、ひざを交差した若造の腕の下へと叩き込んでいた。ほとんど無意識の行為だ。
　が、それすらも相手は辛うじて直撃は避けた。ひざがぶつかる瞬間、重心を後ろに移して衝撃を殺している。さらに後ろに転がることで追撃を避けてみせた。重心移動と身体操作の組み合わさった見事な動きだ。
　だが、権之助にとってとても奇妙な変化が相手に起こる。