引きこもり侍始末(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

１０

　思わぬ反撃に苦悶の声がもれた。だが、同時に宗左衛門の刀もまた甲高い悲鳴をあげている。誰ぞに見られるわけでもなし、と数打物を愛用していたのが仇になり今の衝突で刃が半ばから折れてあさっての方向に飛んでいってしまった。
　そもそも、刀というものは後世の者が想像さえしないほどに脆いものではあるが、今の彼の一撃は完璧なものだ、佩刀が粗悪な品であったが故に破損したのは確実だ。
　一度は驚きをまなざしに宿した忍びだが、こちらが得物を失ったのを見てふたたび瞳に嘲笑を浮かべた。
　ただし、今度は油断せずに剣尖を送ってくる。
　早(はや)――宗左衛門の姿は切先の向かう場所にはいない。片腕をかかげ、忍刀をにぎる相手のそれと衝突させる。
　だが、二度の驚愕の機会は与えない。間髪いれず、腰のあたりにおろしていたもう一方の腕をひらめかせた。硬い物を打つ感触が手のひらに生じる。一瞬裡のうちに、宗左衛門は掌底を相手の顎に打ち込んだのだ。
　白目を剥いて倒れる敵をおとなしく見守りはしない。
　もうひとり、今しがたの相手と並んでいた忍びに肉薄。ひざに猛烈な蹴りをあびせた。
　相手は濁った悲鳴をもらしながら、己の意に反してその場に尻もちをつく。ひざを脱臼したのだ。
　が、最後のひとりは朋輩が負傷するのにも動揺せず、忍刀を一閃させる。
　蹴撃のせいで姿勢を崩した宗左衛門は、とっさに身を投げ出した。さらに劣勢を強いられるがいたしかたない。
　むろん、容赦することなく相手はこちらを狙って忍刀をふりおろした。
　宗左衛門は身を捻りながらも片足を渾身の力を込めて突き出す。
　結果、刃風が身体をかすめると同時に、相手の股間に足の裏が叩き込まれていた。