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「そなたの業前は実のところ、余とさほど変わらぬか余よりもすぐれおる」
「それなら、なぜ」
 正家のいたずらっぽい顔の指摘に助之進はうめくような声を出す。
「そなたの心は前のめりなのだ。理合を守り倒す、そのことに囚われすぎておる。守離理の、離の境地に足を踏み込むときが来ているのだ」
「さようか」
 助之進は抵抗を感じながらも肯定のせりふを選んだ。痛いほどに自分の弱さは思い知らされている。
 油断すれば涙を流しかねなかった。それをこらえるために強く唇を引き結んだ。

 その後、助之進は志乃をつれてお堂からすこし離れた。斜面になっている場所にふたりで腰をおろし先日のように空を見上げる。そして息をととのえた。とりあえず、“囚われた心”の克服の第一歩は、ここからだ。
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