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「ねえ、すこし休みましょう」
 志乃の提案で、小川の土手で助之進たちは休息を取ることになった。
 陽は傾いているが、まだ夕刻には時間があるそんな刻限だ。
 すこし離れた場所に晴幸が腰をおろし、その隣には遠慮というものを知らない例の少年が並んで座っていた。肝っ玉が上質の鋼か何かでできているのだろうか。
「いずこから来たのだ」「使う流儀はなんという」「今日はどこで草鞋を脱ぐ」
 などと朋友を楽しそうに質問攻めにしている。聞きたいことが尽きると今度は、「そのとき織田は」「そこで武田が選んだ手立てというのが」などと、晴幸が頼んだわけでもないのに一方的に軍記について講釈を始めた。
 普段であれば笑ってしまうところだが、今の助之進はわずかばかりも面白く感じなかった。それどころか、小川のせせらぎが自分を笑うかすかな声のようにさえ聞こえている。
 敗北の屈辱、志乃への罪悪感、様々な感情が渦を巻いて助之進の心を翻弄していた。
「もう、わたしたち駿河にいるのね」
 志乃がすこし間を開けて腰をおろした姿勢で口を開いた。無視するのは憚られ、助之進は言葉少なに応じる。
「そうだな」
「明日には駿河、あさってには遠江国にいるのね」
 微笑を浮かべて志乃は川面に目を向けていた。ただ、そのまなざしには淋しげな色が宿っている。
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