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 すると、満点の星空が視界に入った。暗黒のなかで儚さを感じさせる光が無数に輝いていた。
「見ろ、志乃。星が綺麗だ」
「ほんとう」
 志乃がおどろいたような声をもらす。
「江都におったときは日々に追われて、空を仰ぐのも忘れていた」
 助之進は抱いた思いをそのまま口にした。
「旅に出てよかったでしょ」
「お陰で死にかけた」
 志乃がいたずらっぽく告げるのに、助之進はひょうげて応じる。そして、ふたりは忍び笑いをもらす。
 恥ずかしくて口にできなかったが、旅に出てよかった、と本当に助之進は思った。

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