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「次郎丸」
 アルメイダは背筋に寒気をおぼえながら彼を抱きかかえた。片腕が不自由なのがもどかしい。
 文句などいえるはずもない。
 次郎丸の側らには一丁の鉄砲を落ちていた。
 瀕死の重傷を負ってなお、彼は師を救わんとして這いずりながらもこの場まで移動しアルメイダを狙う撃ち手を始末したのだ。
 いったい、どれほどの気力をふりしぼればそんなことが可能なのか。
 片腕の自由を奪われた時点で勝負を捨てた己に殺意すら感情をおぼえた。
「アルメイダ様は悪くない」
 唐突に次郎丸はあわい笑みを浮かべていい放つ。
 直感でアルメイダはこたびの一件をさして彼が発言したのではないと悟った。
 見抜かれていた――のだ、すべてを。
 むろん、仔細など思いもよらぬだろう。それでも、師弟として常にともにいるうちにアルメイダ抱えるものに次郎丸は気づいたのだ。
「悪くない」
 呼吸を浅くしながらもさらに彼は言葉をかさねる。
 死に瀕してのせりふだ、これ以上の必死の思いなどあるはずがなかった。
「ありがとう存ずる」
 アルメイダは一言ずつ噛みしめるように告げる。ここで否定すれば次郎丸のことを踏みにじることになるからだ。
 とたん、次郎丸の顔に満面の笑みが浮かぶ。
 次いで、呼吸が止まった。
 大気が瀑布となって総身を打つ、そんな感覚をおぼえるほどに身体が重くなる。わたしは、わたしは――だが、悔いることは次郎丸の思いを不意にすることになるのだ。
 奥歯を必死に噛みしめてアルメイダはわきあがる感情を押し殺した。
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