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「塩飽の方々があなたに大事な船を譲ったのも、以前の件に感謝すればこそです」
顔を向けた小平次に彼女は真摯な顔で言葉をかさねる。
「軽薄な態度で忍び働きをなさっている、という言葉を取り消します。そんなお方に余人がここまでお力添えをいただけるはずがありません」
もうしわけありません、という謝罪に、
「いえ、わかっていただけてうれしく思います」
小平次はほおが熱くなるのを感じながら豊から目を逸らした。
達成感は十全はものではない。吟が明かした亀太郎の死にまつわる件のことがある。庄左エ門とはいつか決着を、そんな思いを小平次は心の隅に抱いている。
また、心だ乱れているのはそのことだけが原因ではない。脳裏には、無人の島に艀に乗って現れた直後の豊の姿がよみがえっている。
浜に降り立ったかと思うや、豊は小平次に突進してきたのだ。とっさに何が起こるのか理解できなかった小平次は呆気にとられて立ちすくむ。
刹那、豊が抱きついてきた。こちらが何かを言う暇があればこそ、
「御無事でなによりです」
と彼女は叫んだ。同時にそのほおに光るものをつたわらせていた。
小平次にとって未知の状況に考えがまとまらない。ただただ、豊を呆然と見つめた。
――あれがどんな感情に根差した涙だったのか、小平次は未だに掴みかねている。単に顔見知りの者を案じたのか、それ以上の思いがあったのか。
寄る辺を得られれば迷わないと考えていたのに――小平次は胸のうちで嘆息する。現実には忍び働きで金子を得られるようになっても決して悩みが尽きることはない、そのことを学んでいた。
顔を向けた小平次に彼女は真摯な顔で言葉をかさねる。
「軽薄な態度で忍び働きをなさっている、という言葉を取り消します。そんなお方に余人がここまでお力添えをいただけるはずがありません」
もうしわけありません、という謝罪に、
「いえ、わかっていただけてうれしく思います」
小平次はほおが熱くなるのを感じながら豊から目を逸らした。
達成感は十全はものではない。吟が明かした亀太郎の死にまつわる件のことがある。庄左エ門とはいつか決着を、そんな思いを小平次は心の隅に抱いている。
また、心だ乱れているのはそのことだけが原因ではない。脳裏には、無人の島に艀に乗って現れた直後の豊の姿がよみがえっている。
浜に降り立ったかと思うや、豊は小平次に突進してきたのだ。とっさに何が起こるのか理解できなかった小平次は呆気にとられて立ちすくむ。
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「御無事でなによりです」
と彼女は叫んだ。同時にそのほおに光るものをつたわらせていた。
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