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「おことには国元におられる源太郎君(ぎみ)をわしのもとまで連れて参ってほしいのだ」
「若様をでございますか?」
 内記の言葉に今度はすぐにうなずくことはできない。嫌というわけではないが、あまりにもいぶかしかったのだ。
「ご世子のおられぬ今、殿の御子であれば誰であっても奸物どもには障りとなる」
「つまり、お命を縮めんとする動きがあると?」
 吉兵衛は思わず声を高くする。
 これ、とそれに内記はさらに表情を厳しくした。
「申し訳ありあせぬ。されど」
「己の身が可愛い者どもだ、その邪魔となるのであれば殿の御種であっても関係ないということだ」
 諭すように内記は言葉をかさねる。それと、と彼はさらに声をひそめて口を開いた。
「隣の家中の三浦の奴輩もうろんな動きを見せておる」
 三浦の奴輩が――吉兵衛は改めてことの深刻さを認識する。
 奴輩、という単語を使ったことからもわかるように、領地を接する三浦家と吉兵衛たちの家中である八代家は仲が悪かった。ありがちな話ではあるが山がちな土地であるために領地の境目が分かりづらく境目争いで衝突した間柄なのだ。
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